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第3話 side:桜井
「でさーミカが…って、ねぇきいてる?」
「え?あーうん、きいてるきいてる」
腕に絡みつく女と街中を歩き、止まらないマシンガントークに適当に相槌を打っていたら、女は不満そうに俺の顔を覗き込んだ。
今日発情期くるから!なんて言うから会ってはみたものの、まったくそんな気配はないしどーでもいい話ばっかりする女にいい加減飽きてきた。
発情期なんて会う口実じゃねーかって、まじでがっかり。ヤりたい盛り、貴重な休日をくっだらないことで潰すなんてもったいない。
どうやってこの女を撒こうか考えていると、人混みの中、ふと視界の端に目立つ人物を見つけた。
サイドを刈りあげた黒髪のツーブロックに、きつくつり上がった眉、その下には目つきの悪い三白眼の黒目に、俺は見覚えがあった。
同じ学校である、隣のクラスの笹塚恭平 。
彼は学校でも一際目立つ男で、いつも一人でいる所謂一匹狼。売られた喧嘩は絶対に買う、そしてそれらは負け知らずで見た目も相まって学校中から恐れられている。最近は、大人しくなったとかいう噂を聞いたことがあるけど…
けれどそんな恐れられている強面がどこか体調が悪そうだ。と、いうか…
「発情してねぇ?」
「え?なに??」
鼻腔をくすぐる甘ったるい匂いに、思わずくらりと目眩がしそうになった。これ抑制剤飲んでんのか?飲んでこの強烈な匂い?それとも飲んでない?
幸い周りにアルファがいないのか気づいているのは俺だけのようだ。
笹塚は慌てたように踵を返して走り去るようにどこかへ行こうとしている。
俺はそれを見て思わず腕に絡みつく女の手を振り払った。
「は?まじでなに、壮真?」
「ごめん、用事思い出した。つーか発情してから連絡してこいよ、これからは。じゃあな」
「はぁっ!?ねぇ、ちょっと!!」
女の制止の声は無視して俺は笹塚を追いかけるため走り始めた。
もう笹塚の姿は見えないが、とりあえず同じ方向に向かってみると街中を抜けどんどん人気のないところにたどり着いた。
俺は微かに残るフェロモンの匂いを頼りに、辺りを見渡して探す。近場をウロウロしていたら、小さな公園から少し強めの匂いが漂ってくることに気づいてそちらに足を向けた。
「おいおーい、今から俺らにぶち犯されんのにどこ行くんだよ」
「まあいいや、待てねぇみたいだしこのまんまヤッちまおう」
「賛成ー!」
ビンゴ。
座り込む笹塚を取り囲むように頭の悪そうなアルファが二人、下品にゲラゲラ笑っていた。
あー、このままじゃ笹塚がヤられる。完璧に笹塚は発情している様子だけど、二人を睨みつけてるところからすると合意じゃなさそうだ。
ていうかあれ睨みつけてるつもりなんかな。フェロモン漏れっぱなしであの顔されても誘ってるようにしか見えないんだけど。
てーか、あの馬鹿そうなアルファにあの笹塚をやるのは惜しいなぁ…。
俺はすーっと息を吸い込んだ。
「おーい、おまわりさーん!ここでアルファがオメガを強姦してまーす!」
ベタな方法だけど、今とくにアルファとオメガの強姦が問題になってるから、効果は的面だった。アルファの二人は周りや俺をよく確認することなく慌てて逃げていった。
俺は状況が把握出来ていなさそうな笹塚に歩み寄って、目の前でしゃがみこむ。
分かってたはいたけど、強烈なフェロモンに思わずごくりと喉が鳴った。オメガの発情期って基本的にめちゃくちゃいい匂いで興奮するけど、なんか、笹塚のはとくに濃いというか、濃厚。
「ねぇ、大丈夫?フェロモンすっげーだだ漏れてるけど…って、おい!」
笹塚はぼんやり熱の篭った目で俺を見ていたが、声をかけたと同時に俺に倒れ込むように意識を失った。
え、なにこれ据え膳?
食べてください、ってこと?
俺と同じの男である笹塚は重たくはあるけど、ラッキーにも俺ん家はすぐそこ。俺は笹塚を背負うと足取り軽く自宅に急いだ。
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