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第4話
俺は今猛烈にイラついている。
なぜかって?
理由は簡単だ。いま、この、俺の目の前にいる金髪へらへら野郎のせいだ。
俺はあの今すぐにでも記憶を抹消したいくらい史上最悪、口に出すのもおぞましい事件後、発情期が終わるまで登校しなかった。
発情期が来るようになったのはほんのつい最近の話で、来る度に効きの悪い抑制剤に苦しみながら、発情したら部屋にこもると決めていた。
ちなみに抑制剤の効きが悪いのも関係しているのか、人によって違うが規則的に来るはずの発情期が、俺の場合は不規則。本当に、オメガでよかったと思ったことなんて一度もないし、クソみたいに生きにくい体質だ。
ということもあってオメガの件は隠していたんだが、あろうことかこの金髪野郎にバレた上にあの事件が起きた。そして俺は忘れろ話しかけるなといったはずなのに、久しぶりに登校した日の昼休み、奴は俺のクラスにやってきて、たまたま空いていた俺の前の席に当たり前のように座りやがった。
「一週間も学校休んでたからさー、心配したじゃん。もう大丈夫なわけ?」
まるであの時のことはなかったかのような、あっけからんとした態度で話しかけてくる金髪野郎に、周りが少しどよめいた。そう言えばこの学校で俺に話しかけてきた生徒はこいつが初めてかもしれない。
そして俺は少し焦っていた。
俺が実はオメガで、しかも発情期中にアルファに強姦されそうになっていたということを、こいつがいつ口に出すかわからないからだ。周りがそれを信じるかはわからないが、面倒事が増えても厄介だし不用な噂は流したくない。俺が中々に目立つ人間だっつーことは、十分理解している。もちろん悪い意味で。
まあ、だからといってへこへこするつもりはこれっぽっちもないが。
「てめーに心配される謂われはねぇし、気軽に話しかけてくんな。うざい」
「つれないの。俺、笹塚と仲良くしたいんだけど…って待ってよー」
何か喋っているこいつを無視して立ち上がれば、奴は当たり前のようにのこのこついてきた。
俺は昼寝でもしようかと、屋上に向かう。俺がしょっちゅうサボるために屋上にいるからか普段誰も近寄らず、絶好のサボりスポットだ。
「笹塚がさ、オメガだって誰にも言うつもりないから」
屋上についたとき、金髪野郎………桜井つったっけな、俺に言った。俺は桜井の方へ振り向いて睨みつける。
「べつに言いたきゃ言えよ」
「でも隠してんでしょ?有名人の笹塚がオメガだってこと初めて知ったし、そんな素振り今まで見たことなかった」
「………」
図星で何も言えず、桜井を睨んでいた目線を外した。
「…ま、脅しに使ってもいいんだけど。やっぱそうしよっかな。ねぇ笹塚、オメガってこと言いふらされたくなければ、俺と付き合って」
「…はぁ?」
何が楽しいのか桜井はへらへらにやにや笑う。何を考えているのかわからなくて、こういう奴はすごい苦手だ。しかも意味のわからないことばかり言う。
「頭おかしいんじゃねぇの」
ため息を吐いてコンクリートの上に寝転がった。空が青くて気持ちいい。のに、それを隠すように俺の視界いっぱいに桜井の顔が映る。
「俺ら結構体の相性よかったと思うよ。しかも抑制剤が効いててあのフェロモンの量でしょ?セックスできる相手いた方が苦しくなくていいじゃん」
「……………抑制剤効かねぇんだよ。…いや、効くけど普通は即効性があるはずなのに、俺の場合はかなり時間がかかる。あん時も、途中から効いてきた」
「え?そうなの?…あー、だから途中からフェロモンの量減ったんだ。なら、なおさらセックスの相手いたほうがいいじゃん!」
桜井の顔は本気なのか冗談なのかわからない顔をしている。というか、こいつと話してると頭が痛くなってきそうだ。セックスセックスってほんとうるさい。
「いらねぇ。欲しいと思ったこともねぇ。それに待てば効いてくる」
「でも待ってる間辛いでしょ。笹塚が呼べば、俺ならすぐ行くよ。抑制剤なんかいらない、ずっと発情期がいいって思うくらい気持ちよくするし、中に精子欲しいならたっぷり出してやる。笹塚が孕むまで何度も、何度もね」
桜井の唇が俺の顔の横まで接近し、耳元で囁かれる言葉と、下腹部をするりと撫でた手にぞくりと体が震えた。思わずあの時の光景を思い出し、あのとき中に出されていたらと想像して、発情期でもないのに体が熱くなった。
いらない、きもい、うざい
そんな言葉は頭にたくさん浮かぶのに、何も言い返さない俺に桜井はすっと目を細めて口元が弧を描く。
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