5 / 32
第5話 side:桜井
どこか期待をしている笹塚の顔を見ると、思わずアルファとかオメガとか関係なく興奮してしまいそうになった。
固まって動かなくなった笹塚を見てこれはもしやオッケーってことかと、昼休みの青空の下でやるのもたまにはいいかぁなどと考えながら笹塚のだらしなくシャツが開いた胸元から手を滑り込ませようとしたとき、俺の鳩尾に膝がのめり込んだ。
「っ!ぐぅ………」
「っ死ね!」
重たい一撃に思わずうずくまれば、笹塚は俺から距離をとって真っ赤な顔をしながら暴言を吐くと、駆け足で屋上から出ていってしまった。
あの真っ赤な顔。
あのとき家に連れ込んだ時のが気持ちよくて忘れられず、もう一回ヤれたらラッキーだと思って近づいてみたけど、思いの外笹塚自身に興味を持ち始めてしまっている俺は、苦笑いをしながら痛みが去るのをひたすら待った。
◇
「壮真さぁ、笹塚と仲良かったっけ」
放課後、俺の友達のうちの一人である川端がスマホを触りながら問いかけてきた。
今は駅前のカフェで窓際に座りながらだらだらと時間を潰している。
ちなみに笹塚は、あれから教室に戻ってくることはなかった。どこ行ったのかなって思ったけど、そういや笹塚の連絡先とか知らねーし知る術はなかった。今度あったら聞こ。素直に教えてくれならそうだけど。
「んー?いや、ぜんぜん」
「昼休み二人でどっかいってたじゃん。お前らがいなくなったあと教室中やばかったからな。壮真がボコられる!って」
「あー」
「そしたら普通に帰ってきたじゃん」
「普通ではなかったんだけどね」
鳩尾膝で抉られたし。
「でもさぁ、なにがあったか知らないけど関わらない方がいいんじゃねぇ?悪い噂しか聞かないし」
「んーまあそうだよねぇ。愛想ないし目つき悪いしすぐ暴力ふるってくるし」
言いながらつい笑みをこぼしてしまえば、川端はスマホから顔を上げて訝しげにこちらをみた。
ストローでちゅーとカフェオレを吸いながら、 何か言いたげな川端にあえて気づかないよう素知らぬ振りをしていると、また、あの目立つ男を人混みの中見つけた。
そう、笹塚だ。
「壮真?」
いきなり立ち上がった俺を川端は不思議そうに見上げた。
「笹塚見つけたから追いかけてくる」
「は?まじで?お前どうしちゃったの?」
「どうしちゃったんだろーなー。じゃあね!」
へらりと笑って手を振ってその場を去った。笹塚を探す俺はもはやストーカーみたいだ。
人混みをかき分けて周りを見渡し歩くが、笹塚が一向に見当たらない。
見失っちゃったかなぁ。
さすがに駅前なだけあってこの前より人多いし、笹塚も発情期じゃないからフェロモンも感じない。
踵を返して川端のところにでも戻ろうかと思ったとき、偶然にも視界の端に笹塚を見つけた。
「ささっ、…」
笹塚!と声をあげようとして、やめた。
隣に誰かいるらしく、そいつと喋っている。ゆるく巻いた栗毛が特徴のキリッとした顔立ちの女。その女は楽しげに笹塚の腕に絡んでいて、笹塚も嫌そうな顔をしているものの振りほどく気もないらしい。
「…うわ、彼女いたんだ」
笹塚に近づく女なんていないだろうし、いるとしたら彼女?
だから男のセックス相手はいらねーってか。そしたらあの女もアルファか…それともベータかな。
一気に気分は急降下。
恋人持ちに手を出す気はさらさらないので、俺はそのまま踵を返してその場から離れた。
ともだちにシェアしよう!