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第11話

「は?彼女?」 倉庫から逃げたあと、桜井から渡されたアフターピルを複雑な気持ちで飲みながら、冷静になってみると中々気まずいことに気づいた俺は、倉庫からも桜井からも逃げようと思い、教室に鞄を取りに行くため黙って離れようとしたが、何か言いたげな桜井に引き留められた。 「…彼女いんのに俺が相手で申し訳ございませんでしたねーつってんの」 何がどうして俺に彼女がいるという話になったのかは不明だが、腕を組みながらそっぽを向いてめちゃくちゃ不満げに言う桜井は申し訳なさゼロである。 というか、あの俺に対して冷たい態度をとっていたのはこれのせいだろうか。 「俺に彼女なんかいねぇよ」 「はぁ!?嘘じゃん!俺見たんだけど!背の高い細身の、ショートヘアでキリッとした顔の女とデートしてるとこ!」 「背の高いショートヘア…女…」 顎に当ててそんな女の知り合いいただろうかと考えるがそもそも俺は女の友達も知り合いもおらず、思い当たるとすれば… 「……梨絵?」 「ほら!いんじゃねーか!」 もしかして昨日、荷物持ちしてるところを見たんだろうか。最近梨絵にあったのはそれが最後だ。姉の名前を出せばすぐさま桜井が反応して俺を睨みつけた。 「お前馬鹿じゃねぇの」 「はぁ!?」 「俺の姉貴だよ。笹塚 梨絵。昨日だろ、見たの」 「………………え?」 そう告げれば、桜井はぽかんとした間抜け顔を晒した。忙しい桜井の表情に、俺は思わず笑ってしまう。そんな俺を見た桜井が、少し驚いたように目を見開いた。 「早とちりすぎ。やっぱ馬鹿じゃねぇか。つーか俺が彼女いようがいまいが関係…」 「笑った顔すげーかわいい。はじめて見た」 「は?」 真剣な表情で俺の言葉を遮った桜井は俺の肩を掴み、顔をグッと近づけてきたために、俺は一歩下がって距離をとるが桜井は遠慮なく距離を詰めてくる。 「俺さぁ、なんでお前にこだわるのか考えたんだよね。べつにヤんならお前じゃなくてもいいし、アルファの男とか女とかたくさんいるし」 「っな、なに…」 「昨日お前が彼女いんのかと思ったらすげームカついて。ムカついたけど、さっき発情したお前にキスされたときめちゃくちゃ嬉しかったし、お前が彼女じゃなくて俺を求めてくれたのが嬉しかった。姉貴だったけど」 「…………おい、もういい」 「それでさ、気づいたことがあるんだよね」 だんだん、こいつがなにを言いたいのか察してきた。恋愛経験ゼロだがとくべつ鈍感とか鈍い人間じゃない。 「俺ね、お前のことすげー好きみたい」 「っ!」 真剣な表情から、へらりと笑った顔で桜井は簡単に口に出した。何を言われるかなんとなく察してはいたものの、実際口にされると恥ずかしい。こいつやっぱ頭おかしいとか、寝言は寝て言えとか、言ってやりたいことは山ほどあったが、声に出ない。 「何も言わないってことは、オッケーってこと?彼女いないなら問題ないよね。俺と付き合ってくれる?」 「…っ!んなわけ、ねぇだろバーカ!てめぇなんか、アルファなんか俺は大嫌いなんだよ!」 続いてでた桜井の言葉にハッとして、離れるように突き飛ばすと捨て台詞とともに駆け足でその場から離れた。 振り返ることなく、夢だ、全部夢に違いないと祈りながら。

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