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第12話

結局、そもそもの目的である礼を言うということを達成することはできなかったけど、…まあいいか。そんな重要じゃねぇだろ。 と思っていた矢先、またある問題が浮上した。 『次のテスト赤点だったら、お小遣いも減らすし塾に通わせる。いいね?』 俺の親はアルファとオメガの男夫婦。そしてオメガの親である清重はめちゃくちゃうるさい。女みたいに細かい。そう今回の問題の発端も清重の小遣い減らす&塾に通わせる発言が原因だ。 俺は正直絶望した。 バイトもしてないしがない高校生が小遣い減らされんのは死活問題だし、塾に通うなんてもってのほかだ。ぜっったいに行きたくない。まじで行きたくない。 ただ清重が言ったからには、もう一人の親であるアルファの筋肉馬鹿、晴男が俺を殴って縛ってでも連れてくに違いない。 自慢じゃないが俺は勉強が苦手だ。できる限り避けて生きてきたが、今回の清重は本気だ。目がマジだった。 次の定期テストまであと一ヶ月。時間はあるようでない。 姉貴の梨絵も俺に似て馬鹿だ。勉強は教われない。うるさいから清重と晴男にも教わりたくない。 独学は無理だ。モチベが上がらん。 勉強教えてくれる知り合いやツレなんていない。 詰んだ。 「どうしたの?今にも死にそうな顔して」 いつものように屋上でフェンスにもたれかかってどうこの状況を打破するか考えていたら、いつの間にかやってきていた桜井が俺の目の前に立っていた。 こいつは俺に、す、好き、なんて告白をしやがってからもちょくちょく俺の元にやってきては好きーだの付き合ってーだの懲りずに言ってくる。いい加減耳にタコだっつの。うざい。 だけどふと、こいつに勉強教わりゃいいんじゃねぇか?と思いついた。イケメンという人種は得な生き物で、こいつは勉強もそこそこできるらしく、よく教室でツレ相手に勉強を教えていたりしていた気がする。 俺は悩んだ。 悩んで悩んで桜井の顔をじっと見つめていた。一分くらい無言で見つめていたと思う。さすがに桜井が耐えきれなくなって、緩く首を傾げた。 「まじでどうしたの?そんなに見つめられると照れちゃう。そろそろ俺のこと好きになってきた?」 「勉強教えてくんねぇ…?」 「…え、いきなりなに」 桜井のとんちんかんな発言は無視し、率直に頼めば桜井はわけがわからないといった様子だったので、事の成り行きを説明した。 すると意外にも、桜井は面倒くさそうな顔をしており、あまり乗り気じゃないらしい。 「頼まれればしゃーなしに教えることもあるけど、そもそも勉強教えるっていう行為自体苦手なんだよね」 本気で詰んだな。 最後の砦であった桜井にも断られてしまえば、もう手は尽くした。諦めるしかねぇかな。…もう独学で最後まで抗うか…。 また唸って考え始めれば、桜井はなにか思いついたのかにっこり笑顔になった。 「そもそも俺にメリットがないんだよね。だからさ、勉強教える代わりに笹塚がなんでも俺の言うこと聞いてくれる、って言うなら勉強教えてもいいよ」 「なんでもって、…なんだよ」 恐る恐る聞いてみれば、桜井はうーんと空を見上げて考え始めた。 「今のところ思いつかないけどー…言うこと聞く内容は三回までって制限つけよう。それならどう?」 …内容は気になるが、そもそもこいつは俺に害を与えるような人間でないことは確かだし、無制限で言うことを聞くとかじゃないなら、そんなに悪くない提案に思える。 俺は少し悩んだが、背に腹は変えられないと、その提案に乗ることにした。

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