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第17話

「っがぁ!」 振り上げた拳が相手の腹にめり込んで、目の前の男は力なく倒れた。最後の三人目。結局こいつらはどこの学校の奴だったんだか…。 ただ街中をぶらついているだけなのに、ガン飛ばしてんじゃねぇ!って理不尽に突っかかれるのももう慣れた。 喧嘩もできて多少すっきりしたし、こんまんまどっか行くかと踵を返したところで、見慣れた奴がそこに立っていた。 目立つ金髪が風に揺らめいて、にんまりと笑顔の貼り付けた男が歩み寄ってくる。俺は軽くため息を吐いた。 「まーた喧嘩してんの」 「…うっぜ」 もちろん桜井である。ここ最近桜井との行為が増え、発情期が重なってセックスする度、俺の調子はどんどん狂っていく。桜井といないときもふと情事のことを思い出してしまうし、もちろんいても思い出してしまうどころか、発情期と重なれば俺から襲ってしまうこともしばしば。 今までなら絶対、発情期だろうがなんだろうが、アルファを俺から襲ったり、頼ったりすることはなかったのに。こいつが相手だと、妙に調子が狂う。 桜井の横をすり抜けて行こうとすれば、腕を掴まれた。それでさえ、発情期でもない体が反応してしまうのが憎らしい。 「二つ目のお願い、考えたんだよね」 「…なに」 「俺とデートしよ!」 「………」 俺が露骨に嫌そうな顔をしていたからだろう。 桜井は拗ねたように唇を尖らせた。 「笹塚に拒否権はねーから。てかいい加減連絡先教えてくんない?やりにくくてしょうがないんだけど」 と言われ強引にスマホを奪われ、連絡先が交換された。まあ交換されても連絡を返さなければなんら今までと変わりはないので勝手にさせておこう。 「今週の日曜日、南駅に十時集合ねー。あとそれ、手当させて」 「うざすぎる…」 腕を掴まれ引きずられるように桜井の家まで連れていかれる。最近はいつもこうだ。喧嘩をしているとどこからか嗅ぎつけて桜井がやってきて、家に連れていかれては甲斐甲斐しく手当をされる。 こいつは俺の保護者かなんかか。 まあでも、俺の事す、好きらしいし、こういうのが普通なの、か…? 頬の傷に消毒液が湿った脱脂綿をグリグリ押し付けられながら、なぜ俺はこいつにされるがままになっているんだろうとぼんやり考えるのだった。

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