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第18話 side:桜井

笹塚の様子が最近おかしい。 なんというか、素直なのだ。口を開くと憎たらしいけど、まあ俺にとってはそれも可愛いんだけど、とにかく素直。 たとえば、 「ささつかー」 いつの間にか俺の部屋によく出没するようになった笹塚は、絨毯に寝転がりながら漫画を読んでおり、声をかければちらりと俺の方を見た。 前は呼びかけても無視されていたのに、返事はなくとも反応する。すごい進歩だ。 俺は四つん這いで笹塚の頭付近に近寄り、漫画を取りあげた。何を言われるかわかっているのか、笹塚は睨んでいる訳では無いデフォで目つきの悪いその瞳で、俺をじっと見てくる。 「キスしよ」 「い、や、だ」 口では拒否するくせに、その目がね、本人は気づいていないと思うんだけど、めちゃくちゃ期待してるんだよね。キスしたいです、って目が爛々としてる。 それが可愛くて、胸がきゅんっとするわけだけど、これ俺の事好きかも?って自惚れていいの?でも、一度アルファによって快楽を覚えたオメガとしての本能が隠せていないだけの気もする。 「うーん、複雑」 「さっきからなんなんだよお前。いつにも増してうぜぇ」 笹塚がまた違う漫画に手を伸ばそうとしていたので、それを制して掴まえた腕を絨毯の上に縫い止めると瞼を閉じて唇を合わせた。 笹塚は少し抵抗を見せるも、本気で嫌がるような全力ではなく、舌を滑り込ませて絡めれば直ぐに全身の力が抜けてされるがまま。 「んっ、ふ…ん、んっ…」 合間合間に漏れる息が愛しい。 積極的に笹塚の舌も俺の舌を求めて絡んでくる。発情期でもないのにこの積極さ。 「俺とキスすんの、好き?」 「……」 「黙ってちゃわかりませーん、キスすんのやめよーかなー」 ニヤニヤしながら言えば心底ウザそうな表情で俺を睨みつけてくる。その顔も可愛いだけなんだけどなぁ。 「…っ、き、…じゃない」 「えー?なに?」 「………嫌いじゃない」 それが精一杯だとでも言うように、笹塚の顔は真っ赤になってしまいそれを隠すように腕で覆っている。いやもうこれ、俺のこと好きじゃん。 「俺のことは?」 「嫌い」 「大嫌いから嫌いになったし昇格かな!」 「ポジティブすぎんだろ、バカじゃねぇの…」 顔を覆っている笹塚の腕をひっぺがせば、まだ赤くなったままの顔がそこにはあり、眉根を寄せながらやはり睨んでくるが迫力はなし。 「デート楽しみだね」 「全然楽しみじゃねぇ」 ほんとこの口は素直じゃない。再び口付ければ、すぐにとろんとした目で見てくるくせに、すぐに舌絡めて腕を回してくるくせに、俺のことは嫌いらしい。 「笹塚、好きだよ」 「もうだまれよ、おまえ…」 俺たちは絨毯の上からベットに移動し、笹塚が泣きながら『もう嫌だ』と言うまで、俺は何度も何度もヤり続けた。ほんとに、フェロモンなしでもどんだけでもセックスできる。好きって怖い。 泣き疲れて、目を腫らして眠る笹塚の寝顔を見ながら、俺は幸せな気持ちのまま眠ったのだった。

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