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第19話

約束の日曜日。 俺が起きたのは九時半だった。 あいつが言っていた約束の時間って何時だったか?口約束でしかないためスマホに履歴も残っていないし、確かめるのも面倒くさい。 ぼんやり天井をみていると、また眠気が襲ってきた。俺はそれに抗うことなく身を委ね、次に起きたのは十時半。けたたましくなるスマホの着信音によって起こされた。 「うるせぇ」 『うるせぇ、じゃねーよ!今何時だと思ってんの!?十時に待ち合わせっつったろーが!』 スマホに出ればぎゃんぎゃんうるさい桜井の声が頭に響く。寝起きにはきつい。電源ごとスマホを切れば、布団に被って三度寝をする。 だいたいなんで貴重な休日に桜井とデートなんてしなければいけないんだ。願い事のふたつめだとしても、バカバカしくてやる気も起きない。 と思っていたら、家のインターホンが鳴った。両親は仕事でいない。梨絵もたぶんいない。無視していれば、予想通り桜井の俺を呼ぶ声がしたので、渋々玄関に向かった。 「俺さ、お前のことはじめてぶん殴りたいと思った」 「お前なんで俺ん家知ってんだよ。きもい」 「俺、笹塚と違って友達多いんだよね。情報って簡単に漏れんの」 ずかずか無遠慮に上がり込んできた桜井をほっといて、俺は歯磨きやら洗顔やらをすませて部屋に戻れば、桜井が俺の部屋に散らばるものを拾い集めていた。 「なにしてんの」 「お前の部屋汚すぎない?いっそのこと襲ってやろうかと思ったけど、ヤる場所もねーわ」 ゴミは落ちていないのだが、服やら、雑誌やら、筋トレグッズやらは部屋中に散らばっている。あまり気にしたことがなかったが、言われてみればたしかに汚いかもしれない。 勝手に掃除し始めた桜井を横目に、適当にクローゼットからシャツとジーンズを引っ張り出して着替えた。その頃には桜井が部屋の中を綺麗に片付けてくれており、久しぶりに絨毯を見た気がするなぁと他人事のように思う。 「んでどこ行くんだよ」 「寝坊しといてまじでふてぶてしいね。んー…シー行きたいなーとか思ってたんだけど」 「ゲーセンがいい」 「ムードもクソもないデートじゃん…やだよ俺…」 疲れた、とため息を吐きながら桜井は俺のベットに腰をかけた。動いたせいで暑いのか、パタパタとシャツの襟をはためかせ風を送る姿に、ちらりと肌が見えてどくんの胸が高鳴る。 最近、俺の体はおかしい。発情期はもちろんのこと、やたら桜井にむらむらすることが増えた。通常の状態でもふとしたときに桜井をみてむらむらするし、桜井がいなくても体が桜井を欲することがある。 今もそうだ。笹塚が意識しているわけではないのに、腹と鎖骨がちらちらと見える姿に、吐息が漏れる。そんな自分に舌打ちをしそうになり、こういうときに限って桜井はそういうアクションを示そうとしない。 向こうからアクションがあれば乗りやすいが、自分から、素面でどうやって、誘えばいい? 「ほんとにゲーセン行くの?」 「っ、行く」 桜井が俺を見たとき、その顔は目を何度か瞬かせて楽しげに細められた。理由は簡単だった。鏡なんて見なくてもわかる。俺は今、猛烈にヤりたくてしょうがない顔を桜井に晒しているんだから。

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