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第22話
絶対当てつけに違いない。
「えー!壮真ってばほんとえろーい!」
「今夜えっちできるっつったのお前じゃん」
「そうだけどーねぇどこでする?アヤの家来る?」
「んー行くいく」
「やったー!」
女の語尾にハートが飛びまくってるのがわかる。昼休み、学校の廊下で桜井は俺が来たことを確認するなり、近くにいたオメガの女の肩を引き寄せていちゃこらし始めた。
女の方は女の方で頭も股も緩そうなやつ。壮真が好きなんだろう、わかりやすく声を高くしながら壮真からのスキンシップに満更でもないような顔でくっついてる。
俺が桜井を睨めば、桜井も俺を睨んできて、でもすぐに少し小馬鹿にしたような含み笑いをした。
絶対、ぜったいにあてつけだ!
あれからというものの、桜井は一切俺に近寄らなくなり、その代わり女を取っかえ引っ変えしては今みたいに見せつけてくるようになった。
そりゃああんな態度をとった俺が悪いかもしれねぇけど、もうあれから二週間経つぞ!根に持ちすぎだろ、あいつ!
きっと俺が謝れば済む話なんだろう。謝ればあいつも許してくれるに違いないが、もう二週間も経ってしまうと謝るタイミングも見失ったし、むしろ毎日毎日あんな胸糞悪いもん見せつけてくる桜井に怒りすら覚える。
桜井を横切って、俺は屋上に向かうことにした。こういうときは寝るに限る。今日も晴天で昼寝日和だ。
立て付けの悪い扉を開けば、俺のいつもの昼寝場所に先客がいた。
黒髪の男が、俺に背を向ける形で寝ていた。誰だこいつ。この屋上には俺と桜井以外は滅多にこねぇし、ここで誰かと会うような約束もしていない。
「おいてめぇ、ここは俺の場所だそ。勝手に寝てんじゃねぇ」
男に近寄って、寝てるのを確認すると体に向かって軽く蹴りをいれれば、その男は小さく唸って仰向けになった。
そこでふと、俺は眉根をよせた。
こいつアルファか…
アルファにも多少オメガを誘うフェロモンがある。理性を失うほどでも、我慢ができないほどでもなく、アルファか、と判断できるくらいの微量なものだ。
男は煩わしそうに体を起こして俺を見上げた。
キリッとした細長い瞳に、鼻筋の通った鼻と形のいい唇。美形、というよりかは男前といったほうがいいかもしれない。桜井とはまた違ったイケメンで、桜井と同じくモテる人種だとすぐかった。
「お前こそ誰だよ…」
「いや、てめぇが名乗れよ。見ない顔だな」
男は俺の顔をじっと見つめていたが、興味がなくなったのかすぐに視線を逸らしふあ、と欠伸をしている。
「浜岡 誠也 。先週から転校してきた。で、お前は?」
「笹塚」
「笹塚ね。下の名前は?」
「言う必要あるか?」
「ないけど」
なるほど転校生。
であれば見ない顔なのも、屋上にやってきたのも頷ける。
浜岡はよいしょ、と起き上がるとふと何かに気がついたように俺の方を見た。俺の顔をじっと見て、ゆっくりと近づいてくる。
「っな、なんだよ」
「いや、あー…へぇ」
近づいてこられると後ずさってしまうのが人間。気づけばフェンスまで追い詰められ、それ以上下がれない俺の鼻先にまで顔を近づけてきて、なにか匂いを嗅ぐように鼻をすんっと鳴らす。
浜岡は、楽しげに目を細め、口角を上げた。
「お前、オメガか」
「っ、!」
浜岡が言い放った瞬間、どんっと浜岡の体を突き飛ばした。なんで、バレた!?とくに発情期でもないはず、なんで…
何も言えずにいる俺に、浜岡はふんっと鼻を鳴らした。
「俺ちょっと鼻がいいんだわ。オメガの匂いはよくわかる」
「……っ」
「しかも欲求不満だととくにな」
言われて、顔が熱くなるのがわかった。
二週間、俺は桜井と一度もヤッていない。少なくとも二日、三日に一回はヤッていたのに。
たしかに発情期とかそんなの関係なく、欲求不満ではあった。なるべく考えないようにはしていたが。
こいつ厄介だ、と俺は浜岡を睨みつけ、とりあえず逃げる隙を探した。
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