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第23話
「俺が相手してやろうか?」
「…あ?」
「お前にハメてやるっつってんだよ。アルファに種付けされたいんだろ?オメガなんてアルファに孕まされるだけの雌でしかないもんなあ」
…クズだこいつ。俺が大嫌いなタイプのアルファ。桜井のバカのせいで忘れていたがアルファなんてこんな奴らばかりだ。オメガを見下して自分より下等な人種だとマウントをとる。
「死ね。てめぇみたいなアルファは一番大嫌いだ」
睨みつけて、俺は浜岡から逃げるように屋上から抜け出した。浜岡はとくに追いかけてくるようなことはせず、ある程度離れたところで俺は安堵する。
一番大嫌いなのは俺の体だ。
「クソ…」
アルファだったら誰にでも反応してしまうこのクソみたいな体。桜井に会ってから快感を覚えた体はとくにアルファを欲するようになった。
なんとなく、発情期も近い気がする。
最近じゃ発情期が近くなってくると、いつもより桜井が俺の傍にひっつくようになって、発情した途端襲われる、または俺が襲うのがパターンだった。
それによって、発情してから他のアルファに襲われそうになることもなくなったし、すっかり気が緩んでいた。
桜井に頼ることが出来ない今、また頼りない薬を飲んでこそこそするか引きこもるか…。
俺はうんざりするほど深い溜息を吐いた。
◇
最悪。
「なあ、笹塚。このあとなんか用あんのか?」
「言わねぇ」
「メアド教えろよ。それかライン」
「言わねぇ」
放課後の教室。
俺以外もう誰もおらず、運動部の声や吹奏楽の音色だけが聞こえる教室にいると、浜岡は隣のクラスからわざわざ俺のクラスにやってきて、俺の前の空いている席に座り、こっちを見てどうでもいい質問ばかりを投げかけてくる。
なぜだか昨日の屋上のことがあってから、俺はこいつに気に入られたのか暇さえあれば話しかけてくるようになった。意味がわからないし不愉快だし、なによりうざい。うざすぎる。
「じゃあ恋人は?」
「いねぇ」
「へぇ、いないのか」
浜岡は楽しげに笑みを深めた。何を考えてんのかわけがわからなくて気色悪いし、特に今はアルファに関わりたくない。
こいつが離れねぇなら俺が離れようと立ち上がろうとしたとき、腕を掴まれて浜岡が俺の耳元に唇を寄せた。
「なら、俺と付き合う?」
「お前らなにしてんの」
浜岡が耳元で囁いたのと同時だった。久しぶりに聞く声に、俺は反射的にそちらを向いてしまう。
めちゃくちゃ不機嫌そうな桜井が、教室の入口で仁王立ちしていた。
「浜岡、お前なにしてんの?それ、俺のなんだけど」
「恋人いないっつってるけど?」
「バカなんだよ、そいつ!いいから手ぇだすな。他にオメガなんてたくさんいるじゃん」
どうやら二人は知り合いらしい。というか、たぶん同じクラス。
ズカズカと中へ入ってきた桜井は、俺ではなく浜岡を睨んでいる。かくいう浜岡は、楽しげな笑みを浮かべているだけで、そしてちゃっかり俺の手首を掴んだまま振ってみても離さない。桜井はやはりそれを不満げに見ている。
「お前はアルファだったら誰でもいいわけ?」
「あ?」
「俺じゃなくてそいつでもいいのか、ってきいてんの」
反対側の空いている手を桜井に掴まれた。
あ、と思った瞬間どくんと胸が鳴る。桜井に触れられただけでじわじわと体が熱くなってくる。
「そもそも俺はアルファなんて大嫌いなんだよ」
「俺も?」
「……」
桜井が真剣な顔で問いかけてくる。
俺がまた黙ってしまい何も言えずにいると、浜岡が鼻をすんと鳴らして、俺を見た。
そのあと、少し遅れて桜井がハッとした顔で俺を見る。
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