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第26話

もう、めんどうくさい。 「俺、手だすなっつったよね?」 「欲しそうな顔してたし。俺は悪くないだろ」 「悪いに決まってんだろバカじゃねーの」 「発情したオメガ見せつけられて手ださないアルファいるわけないだろ、お前が馬鹿か?」 「あっ、ちょっとどこ行くの笹塚」 なにやら睨み合って言い争いをしている二人に、いつまで続くかわからない目の前の光景に俺はうんざりとしてその場から抜け出そうとしていた。だがそれも失敗に終わり、がっちり桜井の手によって腕をつかまれる。 「そういえば俺、お前と喧嘩してたし気まずいから離れようと思った」 「嘘つけ気まずくねーだろ。てかもうあれはいい。許した」 「ああ?なんでお前に許されなきゃなんねぇんだ。上から目線でむかつく」 「…もういいや、喧嘩終了。終わらねーよこれ」 はあと桜井はため息を吐いて近くの椅子に座った。ため息を吐きたいのはこっちだっつの。発情期で理性を失っているとはいえ、桜井だけでなく浜岡とまで触れてしまったのは大失態である。なによりこいつはオメガを下に見ている態度を隠しもしないし、腹立つ。 浜岡を睨んでいれば、浜岡も椅子にのんびりと座っており俺の目線に気づくとゆったりとした笑顔を浮かべた。 「なに?ヤり足りないなら犯してやるけど」 「んなこと言ってねぇだろ」 「あぁ、でも…」 舌打ちして返せば、浜岡は目を細め笑みを浮かべたまま俺の顔をじっと見た。 「俺本気でお前落とすことに決めたから、覚悟しろよ」 「はぁ…?」 「笹塚!お前首だせ、もう俺が噛む!」 「ぜってぇ嫌だ!」 何を思ったか桜井が浜岡の言葉にハッとして、俺の腕を掴んで引き寄せようとするが、俺は勢いよく振り払ってうなじを両手で押さえながらその教室から脱兎のごとく逃げ出した。 桜井の呼び止める声がするが無視だ。正直腰も痛いが我慢して走る。 教室から少し離れた場所まで来ると、俺は壁に背をつけて息を吐いた。 「許すのかよ…」 本当だったら俺が謝って許してもらわなければいけないはずなのに、俺に甘い桜井は結局許してしまうらしい。もうこの二週間みたいな、あいつに触れられない苦痛を味わなくて済むのかと思うと口元が自然とにやける。それにハッと気づいて俺は唇を引き締めた。 「しゃーねぇなぁ」 そういえばデートの願い叶えてなかったなーなんてしらじらしく思い出しながら、俺は機嫌よくスマホを取り出して桜井にメッセージを送る。 『今週の日曜日、この間のデートのやり直しする』 それだけ送って俺はスマホをポケットに突っ込んだ。

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