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第27話 side:桜井

浜岡まで笹塚に手を出してくるのは予想外だった。あのルックスでクラス中のオメガの注目を総取り。転校初日に何人かオメガを食っていたけど、どれも可愛い系を狙っていたから、笹塚は大丈夫だろうと鷹を括っていたのが間違い、まさか目をつけられるとは思ってもみなかった。 俺は目の前にいる浜岡を睨むと、浜岡はすぐに気づいて挑発的な笑みを俺にむける。 「あいつ、可愛いなあ。従順なやつが好みだと思っていたが、ああいう反抗的なのも中々いい。無理やり犯して、泣かせて、従わせたくなる」 俺は咄嗟に浜岡の胸ぐらを掴んで引き寄せた。浜岡は煩わしそうに眉間にシワを寄せる。 「もしそんなことしてみろ。ぜってーお前を許さない」 吐き捨てるように告げて、掴んでいた胸ぐらを離すと突き飛ばすように浜岡の体を押して教室を後にした。 笹塚はおそらく俺の事が好きだ。それは自覚していないように思えるけど、笹塚の無意識であろう俺に対する言動を見ていればなんとなくわかる。だからといってそれに自惚れていいわけじゃないし、浜岡に取られない可能性もゼロじゃない。 さっさと俺のものになってくれればいいのに。 どうしたら好きと言わせることができるのか。 今回の喧嘩の発端は二週間前のことが原因だけど、正直大してあのことについては怒ってなかった。笹塚が生意気なのはいつものことだし。 でもちょっと突き放してみて、冷たくしたらすぐに我慢できなくなるんじゃないかと思ってわざとあんな態度をとってみたけど、それでも笹塚は頑なだったし、むしろ変な虫がついてしまって大失敗。少し長引かせすぎたかもしれない。さっさと俺が折れとけばよかった。 少し歩いたところで溜息を吐けば、スマホがメッセージの受信を知らせた。それは笹塚からで、デートのやり直しをしようと提案する内容だった。 あいつからそんなことを言うなんて珍しい。なにがそんなに機嫌をよくしたのかはわからないが、思い当たるとすればさっき久しぶりにセックスしたこと。浜岡もいたけど。 何はともあれデートのやり直しができるんであればそれ以上に嬉しいことはない。 もう無駄に駆け引きをするのはやめよう。 やっぱりわかりやすく直球が一番だ。 ◇ 「ということで、笹塚。今日も好きだよ、愛してる」 「何が、ということで、なんだよ意味わかんねーしきもい」 デート当日。 悩みに悩んで場所は映画館にした。 遊園地も悩んだけど俺があまりアトラクション好きじゃないし、なら水族館はと思ったけどそれは笹塚が微妙な反応をしたため、無難に映画館にした。ちょうど見たい映画が一致したって言うのもある。 「喧嘩中、寂しい思いをさせたかなって思って。ごめんね?」 「…寂しかねーよ。うざいのがいなくなって清々してた」 少し唇を尖らせてムッとした顔をする笹塚に、ああ寂しかったんだなあと胸がときめくのを感じる。こういうところもわかりやすい。 不貞腐れ気味の笹塚を引き連れて、映画館に向かった。チケットを購入し、ジュースとポップコーンのセットを頼んで席に座れば、上映まで雑談をしながら待った。 すぐに忘れてしまうようなありふれた雑談をしていると、照明が落とされスクリーンに映像が映し出される。映画の予告が少しの間続き、見たかった本編が流れだせば、俺はちらりと横にいる笹塚を見た。 笹塚は真剣にスクリーンを見つめていて、手はサイドの肘掛に両腕を乗せている。俺はそれを確認して、少しドキドキしながら自分の右手を笹塚の左手へ寄せた。 思い切り叩かれる覚悟で。 そっと笹塚の左手の指に自分の指を絡めた。いわゆる恋人繋ぎ。ビクリと笹塚の手が跳ねて、笹塚が驚いたようにこちらを見る気配を感じたけど、俺はあえてスクリーンを見たまま気づかないフリをした。 拒否されるかなあと思ったけど、意外にも笹塚は俺の手を払い除けることなく、恋人繋ぎは続行された。 笹塚の手に力が入っており、緊張しているのがわかる。それが可愛くて、手を繋げたことが嬉しくて、もう俺は映画どころじゃなかった。

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