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第29話

桜井が狭いゴンドラの中で立ち上がった。俺はビクリと肩を揺らしてしまって、俯いたままでいると桜井がそのまま接近してくる。 俺の左側の座席に膝をつき、右手側の手を俺の顔の横を持ってきた。 顔が近い。 「好きって言ってみ?」 「…あ?」 「俺の事が好きって。そしたらわかるから」 俺は顔を上げて桜井を睨んだ。おそらく真っ赤になっているため、迫力はないと思うけど。 「じゃあ言いやすいようにしてあげる。俺のふたつめの願い、好きって言って」 桜井はゆるやかに笑みを浮かべたまま、睨む俺の頬に手を当ててきてあまーい表情を向けてくる。 すき、なんて言えるわけねぇ。 俺がアルファを好きになるなんてありえねぇし、なのに、でも 「……さ、くらいが…すき、だ」 口に出すとなんでこうも口に馴染むんだろう。ストンと胸の中に落ちてきて、あれだけ考えないようにしていた脳が素直に『あ、俺桜井が好きだったのか』とようやく納得している。 「もういっかい。次は笹塚の言葉で聞かせて」 「す、き。…好きだ」 「かわいーねぇ。俺も好きだよ。笹塚が好き、大好き」 すっかり日が沈み、暗くなってしまったゴンドラの中で、桜井の唇が近づいてくるのがわかった。抵抗することなくそれを受け入れる。吐息混じりに合わさる唇の感触が心地いい。 角度を変え啄むようなキスをしながら桜井は、何度もすきすきと連呼してくる。数分すれば満足したのか、桜井はキスをやめて、額を合わせながら俺の事を見つめた。 「ねぇ、付き合ってくれる?って、何回言ったっけね、このセリフ」 「それも願い事かよ」 「いんやー、俺の素直な告白。大事なひとつはとっとこうかなぁ、と思って。有効期限ないでしょ?」 にんまり笑う桜井の後頭部に手を伸ばすと、引き寄せて今度は俺から再び口を塞いだ。後頭部に触れていた手は桜井の首に回して、舌を潜り込ませば慣れたように舌が絡み合って唾液の混ざり合う音とともに口内が犯される。 「…付き合ってやってもいい」 「うわぁ上から目線!まあいいけどね。今日は夢みたいに幸せな日だから」 そしてまたちゅっと軽くキスをされた。 ゴンドラを降りるまでの間、しつこいくらいにキスをされ続け俺の唇は疲労困憊。いい加減うざいと頭を殴ったところで桜井は涙目になりながら離れたが、離れる際に俺のうなじにわざと触れてきた手が忘れられず、なんとなく熱を帯びたそこを触りながら、桜井の後を追うようにゴンドラを降りた。 ――――――― しおり、お気に、ハート、リアクションありがとうございます! 桜井×笹塚 編 一旦終了です。 次ページから浜岡編入ります。 ドS(浜岡)×ドM平凡の恋愛事情です。 興味があれば引き続きよろしくお願いします。

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