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【2部】第30話

『俺に抱かれたいオメガがいたらいつでも来いよ。可愛い奴限定でな』 俺のクラスに転校してきた男の名前を聞いて、俺は手が震えた。 浜岡 誠也(はまおか せいや)。 彼は小学生のとき俺をいじめていた張本人だ。中学に上がるときに転校していなくなってしまったけど、まさか、こんなところで再会するなんて…。 今でも覚えてる。 『お前オメガかよ。オメガはアルファに孕まされるためだけに存在する下等な人種なんだってな。お前もそうなんだろ?』 まだ発情期はきていなかったものの、オメガだとすでに診断されていた俺は、どこからか浜岡の耳に入ってしまったらしくて、蔑むようにそう言われたことを。 潤む涙を堪えきれずに泣いている俺に、浜岡が笑みを浮かべていたのも覚えてる。 オメガと診断される前は浜岡とも普通に遊んでいた。たまに泣かされることもあったけど、あまり友達のいなかった俺によく声をかけてくれて、俺は小さいながらに浜岡が好きだと自覚していたのに。 そんな浜岡からの屈辱に、悔しくて、悲しくて、そして――… すごく、興奮した。 孕まされるためだけの人種なら、浜岡に孕まされたい。蹴られるのも、殴られるのも、暴言を吐かれるのも全部浜岡がいい。 イジメられながらも喜んでいた俺のことなんて浜岡は知る由もない。だからこそ転校して会えなくなってしまったときは毎日泣いて辛かったけど、それも時間が解決してくれた。そんな小学生のうちに目覚めてしまったアブノーマルな性癖には蓋を。簡単に開かないようにぎっちりガムテープで蓋をして。 それでもやっぱり、最後にあった小学生の浜岡とは比べ物にならないくらいに色っぽい男前になって、身長もすごく伸びていて、当然のごとく性欲強そうなアルファに育ってしまった浜岡を見たら、そんな蓋は簡単に剥がれ落ちた。 「俺、楠 七織(くすのき なおり)。よろしくね」 隣の席だった浜岡が、壇上で挨拶を終えて座ればすかさず挨拶をした。浜岡はゆっくりとした動作で俺を一瞥して、鼻で笑う。 「お前ナナだろ。お前みたいな地味なオメガ興味ないから、二度と話しかけてくるな」 冷たい目。 すぐに逸らされた黒い瞳に、俺は静かに俯いた。 ◇ それが少し前の話。 ギンギンに勃起した性器を扱くのをやめられない。 ナナって、覚えていてくれた!なおり、って読みだけど七織の七で、ナナ。昔からそう呼んでくれていたあだ名を忘れずに、そして俺の事も覚えていてくれた。 「あっ、んぅ、あっん、はまおかぁ…っ」 あまり人が寄らない男子トイレの個室の壁に寄りかかり、先走りでぐちょぐちょの肉棒をひたすら扱く。 あの冷たい目で見られた時からもう勃起がとまらなかった。 「っほしぃ、うしろ…はまおかの、あっ…」 左手は後腔に伸びていて、すでに二本自分の指を挿入して中を掻き回している。自慰をするときに必ず後ろも触っていたら簡単に指を飲み飲むようになってしまったけど、正直物足りない。突いてほしいのはもっと奥。指じゃ届かない場所だ。 「あっぁ、ぅ、イッくぅ…」 便器に向かって射精する。ハァハァと乱れる呼吸を整えて、トイレットペーパーを何枚か取って汚れた体を拭いてズボンを上げた。 何度もあの時のことを思い出しては、このトイレにお世話になってる。 もう一回、あのときみたいにイジメてほしいなぁ…そう思っても、話しかけるなと言われてしまったし。むしろ怒らせたらいけるかも? 名案が浮かばず溜息を吐きながらトイレを後にした。今はもう放課後。外からは部活動の声が盛んに聞こえ、もうそろそろ帰ろうと思った時に、教室に鞄を忘れていることに気づいた。 踵を返して教室に戻ろうとしたとき、ふと自分の隣のクラスから声が聞こえた。複数人の声が聞こえたので、興味本位で通りすがりに覗いて見て、息を潜めた。 あれは同じクラスのイケメンだって人気の桜井くんと、隣のクラスにいる不良で怖いって噂されてる笹塚くん、と…浜岡くんの、三人がそこにいた。

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