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第6話
夜だけれども、門とはデザインが全く違うが、あちらこちらにラリックの灯りが白く庭園を照らしている。花屋で売っているバラとは全く違うがこの薫りはおそらくそうだろう、バラの花が咲いているらしき方向に目を向けると、バラのツタで囲まれた東屋――東屋を表現する英語の単語が出て来ないのはオレが緊張しているからだ――とか、この大きな洋館の庭に相応しいイングリッシュガーデンが一分の隙もなく配置されているのは分かる。
イングリッシュガーデンを作ることが趣味なウチの母さんなら、この庭を見るだけで狂喜乱舞するだろうなと考えてしまったのは、これからどうなるかが不安だったからだ。
まさか取って食われないにしても、表札が出ていないのでドッキリカメラの可能性もあるかもしれない。
ウチのリビングよりも3倍は広そうな応接室に通される。オレの家の応接室に掛かっているカレンダーと同じ絵が程よく古びた金の額縁付きで飾ってあるのにはとても驚いた。
その額縁付の肖像画の中に描かれたのが新しいそうな絵を見付けた。モデルは17歳くらいのスラリとして足が長くて頭が小さい。そしてその顔ときたら、黒い艶々の髪にぱっちりとした黒目がちの瞳が周りの白さと際立ってとても印象的だ。縁どられた睫毛はマッチを5本載せても大丈夫なのではないかと思うほどの長さが上向きに理想的な巻いている。
それに顔全体は白いのに、頬の色はつい触って中の果実をすすりたい果物屋さんの老舗の千○屋に形よくディスプレーしてある桃の果実の弾力さと初々しい薄紅色だったし、理想的な笑みを形作る唇も熟す直前の苺色だ。鼻梁は高すぎず低すぎずの最高の形だった。
思わず立ち止まって見入ってしまう。
「こちらでしばらくお待ちくださいませ。神藤さんと仰いましたわね。コーヒーと紅茶はどちらがお好みでいらっしゃいますの?温かいのと冷たい飲み物ではどちらがお好みでございましょう」
洋館というよりイギリスの城にでも迷い込んだ緊張で背中のシャツがぐっしょり濡れているし、「アイス」を頼むことは即断出来たが、コーヒーと紅茶ではどちらが良いのだろう。
落ち着くためと喉がカラカラなので甘い物を飲みたい。ただ、オレはコーヒーに砂糖を入れたものは飲めないタイプだ。喫茶店などではブラックしか注文しない。
「アイスティをお願いします。この絵だけは新しいですね?モデルは何方なのでしょう?」
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