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第7話
質問に曖昧な笑みを浮かべている、この落ち着いた物腰はメイドさんというよりも女執事と呼ぶのがピッタリだった。
「その件は、後ほどお分かりになると存じますので後のお楽しみということで宜しいかと存じます。
畏まりました。茶葉はいかが致しましょうか?紅茶にはどの産地のミルクをお入れ致しますか?お砂糖はお入れ致しますか」
一瞬「茶葉」が分からなかったけれども、続く言葉から、ダージリンとかアールグレイとかそういう種類のことなのだろうと見当はつく。ミルクの産地までかれたことは初めてだ。イギリスのお貴族様のお城に間違って入ってしまったような気がする。日本でも松阪牛とか神戸牛とかのブランドの牛肉があるのは知っていたけど、ミルクにもそういうブランドがあるのだろうか。
「茶葉は、今の季節と時間に相応しい物をお願いいたします。ミルクはそれに一番合うものを。砂糖は、そうですね、日本で普通に市販されているサイズの角砂糖を8つ程度入れて頂いたらとても嬉しいです」
これが一番無難なリクエストだろう。「アイスティに入れる角砂糖はホットの2倍入れなきゃ甘味が薄くなっちゃうよ」と大学のゼミの女の子が話していたのを思い出しつつ、8つは入れ過ぎだろうとは思ったが、さっきから緊張しすぎてノドがいがらっぽい。本当はのど飴でも舐めたいところなんだけど、冬ならともかく蒸し暑い夜にそんなものは持ち合わせていない。
重厚で落ち着きのある扉の前で無表情に佇んでいる女執事さんが準備に向かうのだろうと思っていたが、彼女はいったん重そうな扉を開けて外に出て行き、ノックの音と共に直ぐに戻ってきた。重そうな扉も多分一本の樫の木ででも作られているのだろう。
「神藤様、あらましはお聞きになっていらっしゃるかと思いますので注意点だけ申し上げても宜しゅうございますか?その上で、万が一『約束を守れそうもない』とご判断なさったら遠慮なくお申し付けくださいませ。お分かりでございますか?」
何となく巫女の託宣めいた口調にオレは頷いてしまった。これでもマスコミ志望の端くれなので、聞き返すことはキッチリと聞いておいた方が良い。
「この住所も、そしてお屋敷からの中のことも守秘義務が有りますか?また、門に表札が出ていないのは何故ですか?
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