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第9話
サンドイッチもシェフが作ったというのは本当らしい。オレが最初に手に取ったサンドイッチのパンは最上の舌触りだったし、中に入っているはたった今畑から摘んできたのかと思うほどシャキっとしているギャベツとツナと玉ねぎサラダのようだったが、絶妙な塩加減で玉ねぎも、ほの甘かった。具は10パターンほどだろうか。ジャガイモのサラダや、スモークサーモンや、グリーンサラダやそれ以外には分からなかったが
「はい。お約束致します。何でしたら、念書をお書きしますよ?」
ゲイ・バーのウワサが話半分だとしても、それでも綺麗な青年では間違いない。しかも、こんなに豪奢な暮らしをしているのだからお金を稼ぐ必要もなさそうだ。それに「深窓の令嬢」ならぬ「深窓のご令息」にはとても興味がある。
「主はただ今支度をしております。もう少々こちらでお待ちくださいませ」
期待と緊張で喉が渇いている。メイドさん達は部屋から出て行ったままなので、女執事さんを呼び止めて、お水と紅茶のお代わりを頼んだ。
「畏まりました。他に御用がございましたら、このボタンをお押し下さいませ」
日本語では暖炉だろうけど、フランス語では何ていったっけ?フランス語とかドイツ語で呼ばれるのが相応しい風格だったが咄嗟に出て来ない。その暖炉の上の華奢な鈴のようなものをこの上もなく優雅に指で示して女執事さんも静かに部屋から出て行った。
オレが常連になっている、そしてこの洋館のウワサも聞いたゲイ・バーは結構料理も旨い。だから、ビールを飲みつつ晩御飯もそこで済まそうと目論んでいたのだが、ビールは口から吹いてしまったし、料理を頼む暇もなく「洋館の堕天使」様の元へと車を走らせる羽目になったので、目の前のサンドイッチをなるべく上品に食べた。本当は口いっぱいに頬張りたかったのだが、メイドさんや女執事さんとかが入って来るかも分からないし、女執事さんが言ったように「主」とかいう人が突然いらっしゃるかも知れなかったので。
壁にかかった絵画――本物かもしれないし、精巧な模写かもしれないがそれにしてもレベルの高い模写だろう。マスコミを志望している以上、色々な知識は必要なので柄にもなく美術展にも足を運ぶ――の中で一番目を惹き付けられるのが、先ほど見た美青年の肖像画だ。
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