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第13話

 人は余りにも美しいモノを見ると声を失うそうだが、今の晶もその状態で、棒のように立ったままだった。 「どうしたの?僕のお相手に来たんじゃないの?僕のことが気に入らないなら帰っていいよ?相手をするのが嫌ならそのまま扉を閉めればいいし、嫌じゃなければ部屋に入ったら?」  熟しきる前の苺のような色の唇が優美な曲線を描く。その口調は熱を帯びて誘っているというのとは全く違って、どこか投げやりな声だったのが気になった。  部屋に入ると、部屋のシャンデリアがオレンジや黄色の光を部屋中に煌めかせている。  その下に立つ「ミユキ」と呼ばれた青年は店で聞いてきたよりももっと綺麗だった。それに透ける純白のシルクに負けないような白い肌やポツリとシルクを押し上げている胸の飾りが紅く染まってひどく扇情的だ。 「宜しく。ミユキと呼んでくれたら嬉しいな」  「嫣然」という文字を一流の美人画家が描けばこうなるに違いないと思わせるような笑みを浮かべた。 「こ、こちらこそ。ミユキってどんな字を書くの?」  その程度のことは聞いても良いだろう。 「深い、浅いの『深』に冬に降ったり、積もったりする『雪』を組み合わせて『深雪』だよ」  こういう説明で基本的な学力は計れる。深雪が本名なのかはナゾではあるけれど、馬鹿ではないらしい。白く薄いシルクを透かして苺色の胸の飾りが一流の彫刻家が丹精込めて大理石に美青年を彫刻したような深雪君には生々しさと妖しい生気を感じさせる。 「宜しく深雪君。オレの名前は……」  足音を立てずに深雪君が近付いてきた。下半身はもっと透けるシルクの夜着で膝丈までを隠しているのかいないのか分からない。深雪君にはとても似合う夜着だけど兆してはいない下半身の動きさえも妙にエロチックだ。素足の白さも輝くように目を射る。  足音がしなかったのは毛足の長い絨毯のせいだった。 「深雪でいいよ。それに名前を聞いたところで意味がない。どうせ明晩は別の人に抱かれるのだから」  唇に華奢な指が二本微かに押し当てられる。磁器のように冷たく細い指が黙るように促した。オレに許されたのは今晩だけで、明日の夜は違う男に身体を開く人なのだなと今更ながら思い知った。  ただ、深雪の口調は男を求めて切羽詰まっているといった感じではなくガラスの繊細さを想起させる声は他人事のような不思議な冷たさをはらんでいる。

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