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第31話

 接吻に酔いしれたように目を閉じて描いたように綺麗な唇からサーモン色の濡れた舌を余すところなく出して舌全体を結合させる接吻は深雪もどうやら気に入ってくれたらしい。華奢な肢体に相応しい肩甲骨の辺りを掴む。  翼を折られた堕天使のような綺麗な肩甲骨が晶の手を愉しませてくれる。強く抱き締める度に濡れたシルクに包まれた深雪の肢体がヒクリと仰け反るのもとても艶めかしい。  この豪奢な部屋には至るところに繊細な模様が施された金と銀の額縁入りの絵画が掛かっていた。絵画の目的からすれば当たり前だが、どれもが目の高さよりも少し低い場所で、壁に寄り掛かることは出来ない。  水音までが甘く蕩けるような接吻を続けながら、だだっ広い部屋に死角はないかと見回す。接吻に夢中になっている深雪の艶やかな美貌は魅入られるという言葉以上の吸引力を感じさせたが。  二人が夢中で動いても絵画に当たる心配のない場所をやっと見つけることが出来た。  舌だけで濃厚な情事をしているような深すぎる接吻を続けながら、深雪の肩甲骨から背骨に指を滑らすと、しなやかで充分に熟した果実のような淫らな肢体がヒクリと撓る。  深雪の過去の男達が花開かせた肢体なのだろうけれども、先ほどとは違ってドス黒い独占欲や征服欲が込み上げて来なかったのは、深雪の精神までが淫らに染められていないのが分かったせいだ。  細い腰をがっしりと掴んだ。  甘く薫る舌を離して、深雪の無垢な艶やかさを感じさせる表情を目に焼き付けた後で、目蓋に口付けた。 「深雪、あそこの壁の辺りに行こう」  晶のマンションの壁紙とは異なり、漆喰だか何かの壁だが今の季節は寄り掛かっても冷たいことはないだろう。  ダイアモンドの雫めいた涙を宿した睫毛がゆっくりと開かれる。 「それは、いいけど。この手はそのままにしてくれたらとても嬉しい」  深雪の腰に回した晶の手首が細い指で弱く掴まれて、恋人繋ぎの形に指が絡み合った。 「その位なら、喜んで」  濡れそぼった夜着でなくとも分かる深雪の腰の細さは晶の片手でも充分支えられる。  壁に凭れ掛かった深雪の首の辺りに両手で囲いを作る。 「深雪って何歳だ?全く見当がつかない。オレとそんなに離れているようには見えないけど」  天使の年齢が良く分からないように、神聖な妖しさを備えた深雪の美貌は年齢不詳だ。

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