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第32話

「二十歳だよ」  何故そんなことを聞かれるのか分からないと言いたげな驚きめいた目の煌めきだった。 「へぇ、オレと同い年だ」  深雪の潤んだ目がさらに驚いたような輝きを放った。 「晶は僕より年上だと思っていた。落ち着いているし、経験は豊富そうだし」  それが普通で、深雪のような深窓の令息、いや洋館に閉じ込められた天使の清らかさと、堕天使の淫らさを併せ持つ人間の方が少数派だろう。ただ、それを指摘するには深雪が傷付くような気がした。 「昼間は何をしているんだ?」  夜は見ず知らずの男達に肢体を委ねて続けていることは知っている。それでも深雪の神聖で端整な美貌や締りの良い身体の奥処には男達の征服欲は掻き立てられこそすれ、萎えることは全くないハズで、夜通し挿れ続ける男達も多数居るだろう。  それがどんなに疲れることかくらいは知識としてなら知っている。「眠っている」と答えるだろうな……と予想していた。 「晶は昼間何をしているの?」  深雪の身体を欲望の赴くままに貪り続ける男達――気持ちはとても良く分かるが――とは異なっているとようやく認識してくれたらしい。出会った時の倦怠感めいた投げやりな口調ではなく、むしろ無邪気さを感じる鈴を振るような声だった。 「大学に行っている。ちなみに明日の講義は午後からで、深雪と一晩過ごす分には何の差し障りもない」  深雪の大きな茶色の目が羨ましそうな光を宿した。 「僕も通いたかったのだけれど、我が家のプライオリティーは夜優先だから通えない。その代り、こっそり教授とか講師の先生を屋敷に呼んで家庭教師みたいに教わってはいるけれど」  晶の方が驚く番だった。教授って晶の大学の友達がしている家庭教師のバイトみたいに、屋敷に呼ぶことも可能なのだろうか。それに、深雪がそんなに勉強をしているとは。 「単位は貰えないだろう?それでも勉強しているのか……。オレは社会学部で、マスコミ志望なんだけど」  大学の教授や講師をこの豪奢な洋館に呼んで講義をして貰っているのなら、大学のことも多少は知っているだろう。世間話くらいはしそうだ。 「大学にも一応籍はあるよ、休学中だけれど。通過儀礼が無事に終わったら復学する積もりで、その時困らないように先生を呼んでいる。僕は経済学部でミクロ経済を専攻しようと思っているのだけれども」

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