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第33話
この豪奢な洋館の主かどうかは分からないが、深雪のことを先ほどの女執事は「様」をつけて呼んだのだから、次期当主候補なのかもしれない。通過儀礼とやらを無事に済ませればの話しなのだろうが。そうであるならば深雪がミクロ経済を専攻したいと思うのも無理はないだろう。
この豪奢でランニングコストも物凄く掛かりそうな洋館に住むということは会社を経営しているとか、大企業の実質的なオーナーである可能性は極めて高いのだから。
「さっき、晶が恋人として扱うって言って呉れたけれども、普通の恋人達はこういう話しもするの?」
深雪の世界はこの洋館の中だけなのかもしれない。
「そうだよ、自分の美意識に叶った人と会話をしてみて、それで意気投合したら二人っきりになる。階段の踊り場の陰とかで、こういうコトをするのが手順かな」
顔を僅かに傾けて深雪の唇に触れるだけの接吻を角度に微調整を加えて繰り返す。
先ほどの接吻で濡れていた二人の唇から微かな水音が豪奢だが華美ではない部屋に密やかに奏でられた。
両腕で深雪の肢体を壁に固定していると、とても綺麗で稀有な蝶の標本を愛でる人の気持ちが良く分かる。
それに死んだ蝶ではなくて深雪は高山の処女雪の無邪気さと、手慣れた高級娼婦の妖艶さを併せ持っているのだから。
薔薇色に染まった唇だけでなく、情事の余韻を色濃く纏った堕天使の彫像めいた滑らかな額や頬の弾力を唇で確かめる。
深雪はどこかくすぐったそうな表情を浮かべて晶の唇を大人しく受けて、ダイアモンドの粉のような涙の雫が宿った睫毛を瞬かせていた。
「晶はさっき、『美意識に叶った人と会話して、意気投合すれば』って言っていたけど、僕にキスしてくれたのは、その前提条件に当てはまったから?」
不安そうに煌めく大きな目は引き込まれそうな透明さを宿している。
打算とか駆け引きめいた響きは全くない。深雪ほどの稀有な美貌と肢体の持ち主なら、自信に裏打ちされた質問をしてきそうなものだが、そういう計算めいた感じは皆無だ。
「もちろんだよ。それにさ、相手に欲望を感じなければ、こうはならない」
昂った下半身を押し付けた。深雪の下半身の濡れた昂ぶりと擦り合わせると二人分以上の熱を感じる。小刻みに腰を動かすと深雪の極めた証でぐっしょりと濡れた箇所から湿って滑った淫らな水音と布越しとはいえ熱い肌の触れ合う感じがとても悦い。
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