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第34話
「そういうものなの?僕の部屋に来た人は全員がこうなっていたから、それが普通なのかと思っていた」
淫らに反応する肢体とは裏腹に無垢な驚きを湛えた瞳の光はとても綺麗だった。
「深雪だって、昼間はこんな大きさじゃないだろ。経済学の勉強をしている時は、さ。欲情すれば大きくなる」
大きな目に納得したような光を浮かべた。
「本当に晶の言う通りだ。『恋人』ってこんな話しもするんだ?」
当たり前過ぎて普通はしないだろうとは思ったが、曖昧に頷いた。深雪の誤解に付け込むことにする。
多分、過去に深雪の身体を開いた男達は高貴な美貌としなやかな肢体を見た瞬間に、言葉ではなく汚してしまいたいどす黒い劣情のみで行動したのだろう。晶が最初そうだったように。
「深雪もさ、初めての経験の時は痛かっただろ?無理やり突っ込まれて」
皆が「昂っていた」と言うからには、事前準備とか性に関する予備知識はなかったようだ。こんな誰もが羨みそうな豪奢な洋館に暮らしてはいるが、夜毎違った男に義務的に抱かれなければならない深雪の特殊な境遇が痛々しく思えてきた。
「18の誕生日の次の夜に念入りに身体を洗われた。身体の中も初めて人の指が挿って……とても驚いたのを覚えている。そして、シルクの夜着を儀式のように手渡されて着せられた。その夜からだな、こういう習慣になったのは。我が家に伝わる通過儀礼だとは聞いていたのだけれども、僕には他人事みたいに感じていた。
でも、その夜は、手荒に身体を繋げられて」
腕の中に縫いとめた深雪の肢体と表情が強張っている。
「ごめん、悪いこと聞いてしまった。怖かっただろう……」
深雪の華奢な背中から腰まで宥めるように掌と腕で包んだ。深雪は二十歳なのだからこういう暮らしを二年続けてきたということだ。
「『恋人』って……色々話しをするものなのだろう?
もちろん怖かったし、それに物凄く痛かった。血も出たしね。次の朝、トモコさん――僕の世話係だよ――が涙ぐんで手当してくれた。でも、次の日も違う男を受け入れて、次第に馴れてきたのも事実だよ」
晶のシャツに片頬を埋めて安堵めいた表情を浮かべる深雪がこの上もなく愛しい存在に思える。
「それは、酷いな。裂傷を負ったら普通は傷が治るまで情事はしないし、させないと聞いている。それにココは……」
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