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第35話

 細いウエストを抱いていた方の手を深雪の汗で濡れて重くなった純白のシルクの夜着のスリットへと滑らせて、深雪の表情を確かめながらゆっくりと入り口に挿れる。 「んっ……晶の指も……とても優しいね。他の男とは違うんだ。こういうのが『恋人』同士の触れ合いなのかな……  でも、僕は……もっと、奥まで欲しいっ」  深雪の上半身がしなやかに撓む。晶の肌へと胸の野苺が押し付けられた。 「深雪の言う通りにするけどさ、ココは筋肉で出来ているから、怪我も治りにくいんだ。普通の場所とは違ってさ。それなのに、次の夜も男をあてがうだなんて酷すぎる」  トモコさんという人は晶が会った女執事とは違った人のようだったが、深雪の裂傷は当然報告されているハズで、深雪の身体を慮るなら数日間は無理をさせないのが使用人の務めではないかと思ってしまう。  晶の指の動きに深雪の肢体が小刻みに揺れているのがとても扇情的だ。 「儀式なのだから、仕方ないんだよ。  今夜、晶と出会えたのはとても幸せだし、晶の優しさも良く分かった。こんな人がたくさんいる広い世界に僕が出ていけるのは、通過儀礼が無事に済んだ後、なんだ……。それまでは、この屋敷からは離れられない。  今夜だけ、晶の『恋人』で居させて。それで、僕は充分満たされる」  甘く掠れた吐息と共に紡ぎ出される言葉は、宿命を受け入れる純粋さと多くの男を虜にしただろう妖艶さだった。深雪が運命に殉じると決めているのは諦めが滲む口調で分かる。行きずりの男の一人にしか過ぎない晶が何を言っても無力で無責任な傍観者の意見だろう。 「ああ、オレの欲望ではなくて、深雪の望むように抱いてやるよ、今夜は。  深雪、ベッドに行く前に素肌を見たい。お互い何も着けずに抱き合いたいし、キスもしたい。  どうやってこの夜着を脱がせることが出来るのか、そろそろ教えてくれてもいいだろう?」  「『恋人』って脱がせ合いもするんだ?」  深雪の無邪気に見開かれた大きな目はシャンデリアの光を受けて茶色にも黒にも煌めいている。  「ああ、本当に大切に思っている人にはな」  肝心な箇所だけを求め合う場合も当然経験はしているが、深雪の無垢な瞳の輝きをもっと見ていたかった。たとえ一晩限りでも。  長い睫毛が綺麗に瞬いた。  

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