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第36話

 深雪の身体を一晩好きに扱える代わりに、情事の後は肢体を隅々まで見ることという不思議な条件を与えられたことを思い出した。 「何も纏っていない深雪の素肌もきっと綺麗だろうけれど、他の奴にはどうやって見せたんだ?」  その瞬間、昏い光が深雪の目に宿る。 「深雪が嫌なら、別に言わなくてもいいんだけど?」  取り成すように唇を重ねた。深雪も少しは接吻に慣れたのか、一流の芸術家が精魂を傾けて作ったような天使の顔を上げて甘い唇と舌を晶に絡ませた。  深雪の細い腕が晶の背中に縋るように回される。  お互いの舌同士が奏であう微かで甘美な水音が豪奢な部屋には似つかわしい。部屋の主が深雪であれば尚更に。 「晶なら本当に脱がしてくれるかもしれない……な。キスもしてくれたし。皆は手荒に引き裂いた。面倒な手間はかけたくなかったのだろうな。  あ、唇とか舌ではなくて他のモノなら咥えさせられたことは数えきれないくらいあるけど、そっちは良いの?  僕の舌は『天鵞絨のようだ』って良く言われた。きっと晶も悦んでくれると思うのだけれど?」  深雪の無垢で高貴な美貌は確かに、滅茶苦茶に汚してしまいたくなる危うさを孕んでいる。接吻をするよりも、滾り切った欲望をねじ込みたくなる妖しさも併せ持った綺麗な唇だ。 「慣れあった恋人同士ならお互いに口で慰め合うとかさ、そういうプレイはあるよ。  深雪は口でも感じるのか?」  口の中にも当然感じる場所は存在する。ただ、たどたどしい接吻から考えると、深雪の淫らに熟した堕天使の肢体とは異なって、唇や舌は天使の無垢さを残していそうだ。 「いや、苦しいだけ……。喉とか突かれると吐きそうになる。それに呼吸は苦しいし、生臭い変な味と臭いも苦手だ……。僕の身体はこの二年で馴れたし、晶ももう分かっていると思うけど、貫かれて動かれたら僕も深い悦楽を感じるようになった。  でも、その後に口に咥えるのは、やっぱり抵抗があるな」  変な味と臭いというのは当然男の欲情の証のことだろう。ただ、一度白濁を深雪の中で出してから唇で奉仕させることは、やり過ぎのような気もする。  無垢な感じに艶めいた唇を白濁で汚したいという気持ちは分からなくもないが。

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