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第38話

「意気投合して、人目のない場所でキスを交わす。それでもっと好きになるとこう聞くんだ『どこか二人きりになれるところに行こう』とね。嫌なら断れば良いし、良いなら頷くとかイエスの意志表示をするのが普通だな」  接吻の合間に言葉を紡いだ。深雪の包みボタンを外す手は止めてはいないが。 「普通の「恋人達」は、どこでこんな行為をするの?」  深雪の目が無垢な光を宿している。本当に知らないのは明らかだ。 「ホテルとか、自分の部屋か相手の部屋だな。二人きりになった後は、深雪も知っている行為を始めるのが普通だけど、お互いが気持ちよくならないと意味がない。  そりゃあ、強引なプレイを好む人は居る。でも、深雪は違いそうだな。優しく抱かれる方が好きそうだ」  唇を重ねるだけの接吻を交わす。 「どこか二人きりになれるところに行こう」  深雪の大きな目が茶色と黒の不思議な煌めきを放った。 「喜んで。僕の部屋で、良い?」  満面に笑みを湛えた深雪の顔はとても無垢で清純そうな光に満ちている。 「いいよ。優しく抱いて欲しいのだろう?」  深雪が艶やかに色づいた濡れた唇を近づけてくる。 「晶に、優しく抱いて欲しい」  お互いの舌を絡ませて微かで淫らな甘い音を立てる。 「深雪には、この夜着は似合わない。  もっとボタンがたくさん付いて、スリットの入っていない純白のシルクならとても相応しいけどな」  高級娼婦めいた夜着は出会った頃の深雪ならばともかく、本質を知ってしまえば却って残酷な衣服だ。  即物的にコトを済ませろと言わんばかりの服でもある。高価な縛めのような夜着なのだから。 「ん、晶にそう言って貰えて、とても嬉しい。でもそろそろ脱げるね?本当にボタンを外してくれたんだ」  深雪の天使めいた顔が無邪気な笑いを浮かべて、とても綺麗で無垢な肌の輝きだ。 「恋人の務めだからな。愛しい人の服を脱がすのは」  そうでない場合も多々あるし、第一深雪とは一度肌を重ねた後だ。ただ、深雪が喜ぶのなら誤解のままで充分だと思う。一晩きりでも幸せな時間を過ごして欲しいと思ってしまう。明日の夜は手荒で強引に貫かれたとしても。深雪が無理に背負わされた通過儀礼とやらがどんなモノかは分からないが、深雪やこの豪奢な屋敷の人間にとっては重大な意味を持つのだろう。深雪は出会った頃には諦念さえ浮かべていた。最初の晩から強引に抱かれてもいる。それでも逃げ出さないのだから、深雪も重い覚悟は決めているのだろう。

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