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第49話
「オレはS社だけど?」
超難関と言われている出版界では知らない人がいない会社だ。歴史の有る出版社で、雑誌や文芸で有名で、明治の文豪から現在の有名作家までを隈なく網羅している。
深雪が艶やかな紅い果実のような唇を近付けてきた。
「そこだったら、分家の一人が役員だよ。僕から言えば少しは晶の役に立てるかも」
深雪の甘い吐息を唇で感じる。
「深雪の厚意にはとても感謝する。ただ、やっぱり自分の力で勝負したいな。恋人のコネを使うのではなくてさ」
深雪の細い手が晶の指に絡んできた。その手を恋人繋ぎにすると、柔らかで綺麗な笑いが紅い唇に浮かび、大きな目も満足そうに煌めいている様子に魅せられる。
「晶はどこの大学?」
「恋人」と呼ばれる度に、深雪の表情が徐々に変わっていき、天使の輪が頭の上にあるかのように、深雪のそれでなくとも聖なる美貌がますます煌めきを増していく。
深雪が大学名を聞いてくれたのもいわゆる学歴フィルターのことを気にしてくれているのかもしれない。それとも深雪自身のことを言うのはまだ決心が付かないのかもしれないが。
「K大学だよ。深雪と違ってエスカレーターではないけれど」
深雪の目が驚いたように見開かれてさらに煌きを放った。
「僕と同じ大学だ。明日お披露目が終われば、この家からは出して貰えるから一緒に通えるね」
心の底から驚いてしまう。まさか大学までが一緒だったとは。深雪の指を強い力で握って唇を重ねた。深雪も目を閉じて接吻の感触に陶然とした表情を浮かべている。一度肌を許し合った甘い雰囲気のせいだろうか、それとも、晶の恋人宣言のせいなのかは分からないが。
「すごい偶然だよな。これもさ、神様が運命の恋人って決めてくれたとしか思えないな。
深雪はキャンパスに一度も行ってないのだろう?」
キャンパス内を深雪が歩けば、学部が違っても絶対に噂になる、一流の彫刻めいた肢体と容貌なのだから。晶も絶対に見逃すはずはない。声をかけるかどうかは分からないが、お近づきになるチャンスは見逃さないようにずっと見ているだろう。
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