50 / 67

第50話

「うん、僕は入学手続きとかも代理人に任せていたからね」  それだけの揺るぎない決意を持って通過儀礼に挑んだということなのだろう。深雪の家の因襲ではそうなっているらしい。 「もし深雪をキャンパス内で見ていたら、確実に一目で恋に落ちただろうな。そして、話し掛けるチャンスをずっと窺っていただろうな。たとえ、深雪が異性愛者であっても、どんなおぞましい過去を持っていようとも、そんなことは全く気にせずに恋愛感情は抱いたと思う」  過去の件は絶対に気にしていないという証拠に指を強く絡め直した。深雪の茶色と黒色のバランスが絶妙な目の光が煌きながら揺れる。まさに天使の無垢な目とはこういうものだろう。 「うん、一緒に通って色々と教えて貰える?僕は分からないことだらけだから。晶のことを頼りにしても良い?」  深雪の瑞々しい唇が極上の笑みを浮かべる。  高校まで普通に通っていたのだからキャンパス内にも当然友人も居るハズで、それでも晶を選んでくれたというのは光栄に思うべきだろう。 「オレで良ければいつでも頼ってくれよな。あ、携帯番号教えるよ」  深雪は長い睫毛に涙の雫を宿らせて目を瞬かせた。その煌めきが清純なダイアを彷彿とさせる。 「僕は今携帯、持っていないんだ。高校の時は持っていたけど、解約した。  でも明日のお披露目が終わったら普通の大学生の生活に戻れるから、携帯も買える。その時は一番に晶の番号を記憶させるね」  この二年の間は屋敷から出ていないのは明らかで、そういう事情なら携帯電話も必要ないだろう。 「それはとても嬉しいな。最近は色々携帯電話とかスマホとか売っているから、機種選びから付き合うことにする。オレの学部は理系の学部と違って比較的暇だし、溜まっていたレポートも昨日全部片付けたから」  深雪は天使の笑みをさらに深く刻んでいる。全裸でなければ飛び跳ねて喜びそうな雰囲気だ。 「うん。晶がついて来てくれるのはとても嬉しい。18歳の誕生日からこの屋敷でしか過ごしていないから、2年の間に街がどう変わっているのかも知らない。恋人として、晶が色々教えてくれたらとても嬉しい」  深雪の弾んだ声は天使以上に清らかな艶やかさだ。 「了解。じゃあさ、まずは携帯電話の店に行こうな。これ、約束の印」  唇を近付けた。

ともだちにシェアしよう!