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第51話

 確認するような接吻に深雪の素肌がさらに艶やかさを帯びる様子も押し倒したくなる清冽な色香を放っている。 「本音はさ、このベッドで深雪を感じたいっていう切羽詰まった欲望があるのだけれど、それよりも先に恋人の深雪のことを知っておきたい。さっき案内してくれそうになった客用寝室は通過儀礼で使うためだけに用意してあるのだろう?」  手は恋人繋ぎをして深雪の唇を啄ばむように接吻し続けながら合間に聞いた。  深雪は陶然とした綺麗な表情を浮かべている。その様子は、どこかの彫刻にある、聖女何とかの『法悦』よりも遥かに綺麗で、そして瑞々しい美しさに溢れている。  これだけ広い洋館なのだから、本来の目的で使う主人用の客用寝室も用意されていそうだ。深雪との情事はそれなりの経験を積んできた晶も惑溺しそうな堕天使の淫らさと時折見せる無垢さで行為に没頭してしまったせいか、メイドさんが運んできたサンドイッチのことは今まで忘れていたがどんな高級店のテイクアウトでもあれだけの味は出せないだろう。だったら、専属のシェフまで居るのかも知れない。そんな豪華な暮らしぶりなのだから深雪の部屋にある客用寝室――今でこそ深雪は主人の証を手に入れたので明日からは主人として扱われるだろうが――は毎夜違った男を迎え入れるためにだけ用意された部屋に違いない。 「恋人だったら、話すのが当たり前なんだね……。晶も僕の過去を受け入れてくれたし、嫌われることはなさそうだけ……ど」  見る角度によっては黒と茶色に見える目が不安そうに揺れているのが、華奢なガラス細工のような感じだった。 「大丈夫だ。深雪が好きで肌を許したわけではないことくらいは分かっている。それに、どんな過去があったとしても深雪の心はとても無垢で綺麗なままだよ。それは恋人のオレが保証する」  繋いだ手に力を込めて、揺れる瞳に揺るぎない眼差しを注ぎながら接吻を繰り返した。  深雪は情事の余韻を艶めいた肌に色濃く残しながら、紅い紅を刷いたような唇をサーモンピンクの舌で辿っている。天才と呼ばれる彫刻家でも表現出来ない綺麗な眉が寄せられているのも神々しい神聖さと生身の人間の奏でさせる極上のシンフォニーのようだった。 「深雪にだって言いたくないことの一つや二つはあるだろうし、言いたくなければそれでいいよ?」

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