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第53話
「んっ……晶の触り方の方がもっと落ち着く。肩に頭を置いても良い?」
先ほどよりもあどけない口調が艶やかな吐息と共に洩れる。
「ああ、いくらでも。強さはこれくらいで良いのか?」
深雪がリラックスする触り方なんて分からない。ただ、零れた甘い吐息は満足そうだった。
「んっ……その強さで……晶が僕を抱いてくれるまでは、そうしていて。本当は今すぐにでも抱いて欲しくてウズウズしているよ?」
熱い息吹を耳に感じて、思わずベッドに二人して倒れ込みそうになる。ただ、そうすれば身体でお互いを感じることは出来ても、深雪の家の謎に迫ることは出来ない。
「オレだってそうさ。ただ、深雪のことは身体も心も何でも知りたい。身体は一度触れ合わせただろう?今度は心の番だ。普通は心をある程度知ってから、情事に及ぶのが普通なんだけど……な」
当然、顔やスタイルが好みなだけで情事に及ぶことも良くある。ただ、深雪の場合はゆっくりとお互いを知りたかった。
「そうなんだ……。でも僕は『胸』って晶に言うのはとても勇気が必要だったよ。僕の過去を知っている晶がどういう反応を示すのか分からなかったし。それにたくさんの男達は『女みたいに感じやすい胸だな』とせせら笑いながら触ってきた」
繋いだ指にさらに力をこめた。
「深雪はさ、何て言うか……神々しい美貌とスタイルの持ち主なんだ。オレも人のことは言えないけれど、最初深雪を見た時に、『汚してしまいたい』と思ってしまった。ほらさ、『金閣寺』を読んだことがあるか?あれって、綺麗だから燃やしてしまいたいっていうのが主題みたいなものだろう?あれと一緒だよ。深雪がこんなに綺麗で感じやすい身体を持っているのは深雪のせいじゃないのにな」
「そうかな?あんなに綺麗じゃないと思うけど……」
深雪の口調から硬さが消えている。
「客室用のベッドは真紅のシルクだよ。その方が興奮するとかで。その部屋の方が晶も良いのならそうするけれど?」
絵に描いたような明眸皓歯の深雪には紅いシルクも良く似合うだろう。そして堕天使のイメージも深雪の場合真紅だ。
「いや、ここの方がいい。真紅の客室用ベッドは主人に生まれかわるための蚕のマユみたいなものだろ?主人になったのだから、この寝室で抱きたいな。
深雪の家は先祖代々大きな店を構えているのか?」
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