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第58話

 晶が所属しているマイノリティの世界では当たり前のよう世間知のない深雪はすっかり晶の言う通りに振る舞っている。聖なる天使の無垢さと堕天使の淫乱さを持ち合わせた深雪の落差に惹かれてしまう。  素肌を密着させて抱き合うと、深雪が安堵の笑みを綺麗な顔に浮かべた。お互いが昂りきっているのに、性急にコトを運ばない微妙な密着感がとても新鮮だった。 「晶と出会えて本当に良かった。僕の家では『主人の証』は、運命の相手とこういう行為をした時に顕現すると代々伝えられている。僕は半信半疑だったのだけれども通過儀礼を二年間も続けてきた甲斐が有ったよ?  晶が運命の相手だったと分かって本当に良かった」  深雪の声は深みを増している。 「運命の相手?」  深雪の華奢な背中に腕を回して抱き締めた。 「そう。僕が一回きりの行為を重ねてきたのもそのせいだ。誰彼となく肌を重ねてきた主人候補は、運命の相手が現れた時に身体のどこかに主人の証が現れるのだって。もちろん、分家でもそういう行為をしている。そして、ココの……」  深雪の細い指が腰骨を確かめるようの辿っているのを素肌で感じた。 「身体のどこかは具体的には分からないのだけれども、男に委ねたこの身体にね、この印が現れた時は家が栄える象徴なのだって……」  だから女執事はキスマークを付けるのを嫌がっていたのだろうなと思う。ただ、深雪の肢体に晶が触れてから現れたという複雑なアザを人工的に作り出すのは難易度がかなり高い。 「そのために深雪は二年間も無駄に過ごしてきたわけか?」  現在では到底信じることが出来ない因襲のように思えた。ただ、密着した深雪の整った顔は満足げな笑みを浮かべている。 「無駄じゃないよ?ウチの先祖は男娼上がりで、たまたまだけれども、この印を身体に刻んだご先祖様が店を構えたんだ。大商人――固有名詞を出せば晶も知っている店の主人だよ――に身請けされて、しばらくは妾宅暮らしだったのだけれど、美貌だけではなく商才もあることが旦那にも分かって、店の開業資金も出してくれた。そうしたらね、同業の商人が目を瞠るくらいの勢いで家が栄えた。二代目で一流の米問屋になった、将軍家御用達まで仰せつかったくらいにね。それがどんなに凄いことか晶にも分かる……と思うのだけれども」  マスコミ志望の晶ではあったが、一応の教育は大学で受けてはいる。

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