59 / 67

第59話

 男娼というのは俄かには信じられないが、深雪の美貌にはどこか昏い陰があることも事実ではある。 「ああ、一応は知っている。けれども、現在の日本でも……そして都会で有ればあるほどそういう『ならわし』が存在するのは聞いたことがない」  深雪の細い髪を手で掬うとサラサラと指の間から零れるのがとても綺麗だった。一度は肌を重ねて汗もかいたハズなのに、深雪の髪はもう艶やかに乾いている。 「どこの旧家でも公にはしないけれどね。でも、家の内部では色々と『ならわし』は存在するよ?ウチはたまたま、見ず知らずの男に抱かれるというモノだっただけで、格別なことではないよ。ただ、通過儀礼の時はとても辛かったことは事実だけれど」  深雪は好き好んで男に抱かれる生活をしてきたわけではないことは分かっている。  それに、代々続く旧家には色々な因襲があることも知識としては持っているつもりだった。東京ではなく地方に連綿と続く「ならわし」のことは全く知らなかったが。  ただ、大臣クラスの人間が表には出さないものの「占い」専門のブレーンを置くことは知っていた。総理大臣でも選挙にあえなく落選してしまえば「ただの人」――「前総理」もしくは「総理」と呼ばれる権限を有しているのは知っているが、国会議員としての給料や総理としての収入が途絶える――だから、「人知を超えたモノ」に縋るのかもしれないが。 「深雪が心からあの行為を愉しんでいるわけではないことは分かっていた。それなのに、強引にコトを進めて悪いと思っている」  深雪はとても幸せそうに微笑んだ。そういう表情を浮かべると汚れの無い天使を彷彿とさせた。 「晶は優しく抱いてくれたよ?それにボタンを全部外してくれた。『夜の支度』のメイドさんは3人居るのだけれども、3人が手分けをしてボタンを留めることになっていて、それを1人で外してくれた晶は凄いなと思った。僕は晶に抱かれて幸せだったけれども、晶はどう?」  確かにシルクの布で包んでいるボタンは外すのが厄介だったのは事実だ。ただ、過去の男たちのように手荒に引き千切るような真似は絶対に出来なかった。 「深雪の性格や容姿はとても好みだし、身体の相性もイイと思う。とても悦かった。話しなんかやめてもう一度深雪の中に挿りたいくらいに。

ともだちにシェアしよう!