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第60話
「ほら、今夜の深雪は快楽のスポットを一つ発見しただろう?あの場所はオレが衝いて初めて分かったんだろう?
そういう場所をこれからも探して行こう。この行為はさっきまでが『通過儀礼』で、今からが、恋人としてのモノで……深雪が嫌がるようなことは絶対にしないから。
しかし、『通過儀礼』とはいえ、2年間も辛かっただろう?」
深雪が泣きそうな表情を浮かべた。
「オレの胸で良かったら、思いっきり泣いて良い。あ、素肌じゃマズイかな?」
2年間の様々な記憶が喚起されたのか、深雪の大きな目からは大粒の涙の雫が今にも零れ落ちてしまいそうだった。
「ううん。晶が良ければ、晶の胸に顔を埋めて泣きたいのだけれども、良いかな?」
深雪の表情は名工の手で彫られた聖母マリアが血の涙を流したという伝説が脳裏に甦ってきたくらい、とても悲しそうだった。
「胸くらいなら喜んで貸す。それが恋人としての務めだから」
身体をずらして深雪の顔が胸に当たるようにした。
「とても辛かった……。男娼上がりのご先祖様のお蔭でね、今でも政財界には隠然たる勢力も人脈も持っている我が家なのだけれども、それも「主人」に証が訪れなければ――分家からでも主人になった人間は居る――その代は屋敷にとって良くないことが起こるとされている。実際、経済の大恐慌とか、第二次世界大戦とかは「主人不在」の出来事なんだ。
空襲でこの辺りが焼け野原になった時、その当時の主人も死亡して、次に「主人」の証が出た人は朝鮮戦争で莫大な富を築いた。
ご先祖様が男娼上がりって話はもうしたと思うけれど、その人も『主人の証』を持っていた人らしい。それで、『主人の証』はウチの家が栄えると代々言い告げられてきた。
そのご先祖様も身請けした大商人に囲われるようになってからこの『証』が背中に現れたと伝えられている。
その大商人とご先祖様とはずっと――店が軌道に乗ってからも――身体の関係は連綿と続いていたらしいし、男に抱かれないと絶対にこの『証』は身体に出ないのだって。
だから僕も……辛いけど頑張った。
でも、晶と今夜出会えて本当に良かった」
泣きながらも憑かれたように話す深雪は晶の胸に大粒の涙を落とし続けている。
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