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第63話

 30歳の時の子供が深雪だったとしても、父親は50歳という計算になる。あと数年待てない事情でもあるのだろうか?ただ、それを直接聞くのも何だか憚られる。 「深雪の家では代々がこの『仕来たり』を通過してきたのだろう?それがどんなに過酷なことなのかも、さっき深雪が言っていたよな?そのう……」  深雪の長い睫毛が悲しそうに瞬いた。その度ごとにダイアの粉めいた涙の小さな雫が煌めく。 「お父様はね、5年前から若年性のアルツハイマーを発症していて症状は酷くなるばかりなんだ……。当主としてはもう認められないと分家から言ってきて……。あ、僕の名字はまだ言ってなかったよね?神泉寺、神泉寺家の本家の長男で……兄弟はいない」  名字を聞いて心の底から驚愕した。有名ではないものの、その財力や人脈は歴代首相をも動かすとされている「知る人ぞ知る」名門中の名門だ。マスコミ志望の晶も神秘的なというか神憑り的な存在の家が有るとは知っていた。それがこの家だったとは。深雪の言葉の端々から有名な家ではないかと思ったし、この都心に有るとは思えない豪邸を見れば深雪の家が途方もないお金持ちであることも分かってはいたが。 「神泉寺って……あの?江戸時代は豪商として名を馳せて、明治以降も栄え続けているという……?お父様は、お気の毒なこと……だ……な」  その主人になる代償が「毎晩違った男に抱かれる」というのは、確かに表沙汰には出来ない秘め事だろう。それに若年性アルツハイマー型認知症という病気は治療が難しいことでも有名なのは知っている。それに若年性アルツハイマーは遺伝ではないかとの説もある。 「晶が思っている神泉寺家で間違いないと思うよ。お母様はね、僕が生まれたことで肩の荷が下りたのかずっと仮面夫婦だったし、今はお父様の看病は人任せにして世界一周の船旅に出ている。元々政略結婚の側面が強かったし、今はどの辺りにいるのかも知らない。家柄の違いで引き裂かれた恋人も居たらしいから、もしかすると、その男性と一緒かもしれないね」

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