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第65話

 この話しを詳しく教えてくれた島崎さんには悪いが、口の堅さもマスコミ志望ならばよりいっそう要求される素質のハズで、誰にも漏らす積もりもない。お金のことまで心配してくれた島崎さんに多少の良心の呵責を感じるものの、実際に損失が出たわけでもないのでヨシとしよう。深雪のお父様とその情人のように一生続くかどうかは誰にも分からないし、終わる恋の方が圧倒的に多いことは当然わきまえている。  ただ、深雪の身体だけでなく心を守って生きていくのも悪くはないと思っているのも事実だ。  深雪の艶やかな笑いは周囲に金の雫を撒き散らしたように綺麗だった。 「本当に?晶もこんな僕で良いの?」  「こんな」というのは深雪の過去のことだろう、そう告げる時の声が微かに震えていた。 「ああ、もちろん。オレの方こそ聞きたい。深雪は本当にオレで良いの……か?」  深雪が意識しているかどうかは分からないが、「主人の証」とやらを出現させた人間に対して恩を抱く可能性は極めて高い。  深雪の二年間は豪奢な屋敷に幽閉された男娼のような生活だったハズで、その対価がお金ではなく「主人の証」のアザだっただけの違いだ。  昔で言うところの「身請け」話しを告げられた高級遊女と同じような感覚を抱いたとしても何の不思議もない。愛情と感謝の気持ちはまた別なものでもあるが、深雪は混同しているかもしれない。18歳からの二年間は世間とは隔絶した場所で生きてきたのだから。 「晶がそう言ってくれただけで、とても嬉しいよ?ずっと、僕を救ってくれる人を待っていて……、そして待ちくたびれて、もう心が限界を訴えていた。毎晩折れそうになる気持ちをどうにかして宥めていた……。  でも、晶が今夜僕のところに来てくれて、本当に良かった」  滑らかな肌に大粒の涙の雫が嗚咽の音もなく伝い続けている。その雫を舌で受け止めた。 「深雪はとても強いと思う。これからは一人で抱え込むのではなく、オレに少しでも重い荷物を分け与えてくれればいい。  そうやって心の負担を軽くする必要もあるだろう?」  ただ、深雪の心の中にわだかまっていた思いは「主人の証」を身体のどこかに出現させなければならないという使命感のハズで、それが達成された今となっては輝かしい未来が待っているだけのような気もしたが。

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