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第2話

「七瀬、何聴いてんの?」 今城 伊咲(こんじょう いさき)が 俺の耳からイヤホンを抜き去った。 急に音楽を奪われた片耳が悲しく外気に晒される。 伊咲は長い黒髪を耳にかけると 何の断りもなく俺のイヤホンを自分の耳に差し込んだ。 伊咲は聴いた瞬間に少し目を開いて微笑む。 「あずくんじゃん。昨日投稿されたやつ?」 「そー。昨日聴けなかったから今聴いてる」 昨日に限ってイヤホンを学校に忘れてしまい、 俺は悶々としながら 聴けない代わりに皆の感想コメントを読んで 眠りについたのだった。 イヤホン無しで聴いても良かったのだが 今回の曲はイヤホン必須!との事で 一番初めはイヤホン有りで聴こうと決めていたから。 すでに昨日新曲を聴いたazuファンたちが コメント欄に、2分53秒で左のイヤホンを外せ!と 事細かに指示をしてくれている。 どうやら、そのタイミングで左側を外して 右側だけで聴くとBGMが消えazuの声だけが 脳に響く仕掛けになっているようだ。 だから、まずは両耳でちゃんと聴きたいんだけど。 今俺が取られたのは右側。 つまり、ラスサビの前の良いところで 俺の耳にはピアノの音しか聴こえないという事になる。 azuの声が聴きたいのに。 まあ、別にいいけどさ。 「あずくんの声めっちゃ好き」 伊咲は目を瞑って耳に手を添えた。 その方が音が手の中で反響してよく聴こえるのだろう。 俺も真似をして左の耳を手で覆った。 教室のざわめきが少しだけ遠くなる。 azu。通称「あずくん」。 性別は非公開だが、少年っぽさのある声から 親しみ感の増す、君付けで呼ばれるようになった。 初投稿、「僕を見つけてくれた君へ」から まだ2ヶ月も経っていないのに 彼はすでにその初投稿を含め3つも曲を投稿しており、 昨日がその3つ目だ。

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