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第3話
曲が終わると、伊咲は小さくありがとうと呟き
俺にイヤホンを返してくれた。
大事なところでピアノの音しか聴こえなかったので
また後でゆっくり聴こう…。
「やっぱあずくん最強だわ」
「うん。vommitすっごい荒れたよな」
「ね、ほんと、あずくんフィーバー」
vommit(ボミット)とは、いわゆる動画投稿サイトだ。
voiceとcommitを掛け合わせた造語である。
ゲーム実況やアニメーション等の動画を
投稿できるサイトは数多くあれど、
vommitでは歌に限定された動画しか投稿できない。
しかも、既存の音楽のカバーはダメ。
作詞、作曲、編曲、歌唱を自分でするか
そのどれかに特化した人に頼んで手伝ってもらったり
曲を提供してもらう、等が一般的である。
皆、オリジナルで勝負しているのだ。
なぜなら、もともとvommitは
クリエイター同士の交流の場として
作られたアプリだったから。
現在は少し様相が変わってきているが
歌う側も作る側も本気のクリエイターが集まってくる。
だからこそ、決してプロではないvommit投稿者に
大手の音楽会社も注目していて
実力のある人は引き抜かれることもあるらしい。
もっとも、歌手よりもエンジニアとして、だが。
アプリとしては単純な作りになっていて使いやすい。
最初に登録する時にクリエイターか視聴者かを選択し、
さらに、クリエイターの中から
歌手、作曲、作詞、編曲のどれかを選択する。
クリエイターと視聴者では画面が違うらしく
視聴者である俺のアプリのホーム画面は
新着、ランキング、お気に入りの3つの欄が
並んでいるだけの至ってシンプルなもの。
基本はその、新着やランキングから歌を聴き、
気に入った歌はお気に入りに登録して使う。
お気に入りに登録すると、
バックグラウンド再生が出来て便利なのだ。
視聴者としての他の機能は、
vommitationやvomi mailぐらい。
無駄な機能がなくてシンプルで良い。
「あずくん、人気があるからさ
すぐにコラボとかしてくれそうだよね」
伊咲の言葉に頷く。
「してほしいなぁ、azu癖ないから誰とでも合いそう」
「あーね。nyaoくんとコラボしてくれないかなぁ。
あずくん本気のショタボで歌ってくれ〜〜」
うわ、それ聞きたい。
nyaoは伊咲の推しで、カワボに定評がある投稿者だ。
azuとは系統が違いすぎて
絶対コラボなんてするわけないとは思うけど、
azuのショタボは聴いてみたい。
変な意味ではなく。
azuの色んな声が聴いてみたいのだ。
歌ってる以外の時の声とか。
彼は一体どんな声で話すんだろう。
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