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第4話
「何の話〜?」
紗倉 尚史(さくら ひさし)が
俺の前の席にドンっと鞄を置いた。
先日席替えをして、元々仲の良かった尚史と
前後の席になったのだ。
休み時間に席を立たなくて済むようになったから
とてもラッキーだ。
「尚史おはよ」と、小さく挨拶した俺と
「あずくん。昨日の」と、質問に答えた伊咲に向かって
尚史は興味無さそうに鼻を鳴らす。
「あー出た。あずあずね。お前らazu聴きすぎだろ」
「だってあずくん最高だもん」
「vommitの何がいいかわかんねー」
尚史の言うことはもっともだ。
確かに、vommitは一般受けはしない。
一般受けを気にしないクリエイター達が集うのだ。
ハイセンスすぎる曲がゴロゴロ転がっていて
俺だって理解できないんだから。
まあ、俺はvommit界隈が好きというより
ただazuが好きなだけなんだけど。
「そういう紗倉だって聴いてるじゃない」
「お前らに合わせてやってるんですー」
そう言って口を尖らす尚史の顔は、
もうすぐ冬を迎えるというのに
夏の名残でよく日に焼けている。
野球部で、ただでさえ太陽の光を浴びているのに
根っからのアウトドア派で
休日も太陽の下で遊び回っている結果だ。
そのせいか、彼はいつも明るく笑っていて、
彼の傍にいると太陽の香りがする気がした。
「真央もめっちゃazu聴くよな」
尚史は不意に俺の方を見た。
「うん、好きだから」
「俺にはわかんねぇなー。
もっとロッケンロールな歌のが好きだ」
尚史のロッケンロールの発音に
俺と伊咲は同時に吹き出した。
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