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第19話

sakuさんが連れてきてくれたところは イタリアンの店だった。 まだ高校生で、お小遣いで暮らしている身としては 友達とご飯なんてせいぜいマックかファミレスだ。 やはり大学生は違う。 注文して、ご飯が来るのを待ってる間、 sakuさんと俺はvommitの話に花を咲かせた。 二人の共通で最大の話題。 やがて話は俺の活動のことになる。 届いたパスタをフォークでくるくると 遊ぶように巻きながらsakuさんは言った。 「みんな、azuの素性が気になるみたいだぞ?」 それはそうだろうな、と納得する。 俺は基本プロフィールに ほとんど何も記載していないからだ。 性別すら非公開である。 まあ、歌声で男って分かるだろうけど。 特に深い意味がある訳では無いが、 普通に身バレが怖いし、 純粋に、何のバックグラウンドも知らずに 俺の歌だけを聴いてほしかったのだ。 「せめて、毎日掲示板に投稿するとかしてあげたら?」 「うーん、そんなに毎日言うことないんですよね」 「日常のちょっとしたことでもファンは嬉しいんだよ」 中には、毎日ファンに対して何らかのアクションを 起こす投稿者もいるけれど 俺の場合、家に帰ってからずっと 曲を作ったりなんやかんやして 気がつけば真夜中になっていたりするから 掲示板に投稿するタイミングを逃す。 それに、曲を投稿する時もだが 顔の見えない不特定多数の人間に対して 何かをすることは心的負担が大きい。 恥ずかしい話、 俺は身体的にも精神的にも体力がないから 毎回曲を投稿する日の前後はぐったりと倒れている。 「それは分かるんですけど…あんまり言いたくないし」 「そんなんでお前Twitterどうするんだよ」 「どうするも何も、する気ないです」 Twitterとか、一番怖い。 毎時間毎分毎秒、 他人からダイレクトに反応が来るなんて 精神がすり減りそうだ。 そんなところに心を使ってる余裕は無い。 「はい、チーズ」 不意に、カシャッと音がした。

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