21 / 80

第21話

撮った写真を見たsakuさんは呟いた。 「あずくんまっくろくろすけだけど」 「これで大丈夫です」 個人情報を守り抜ければ まっくろくろすけだろうと何でもいい。 sakuさんは楽しそうに肩を揺らして笑った。 「あーあー、ほんとあずくん可愛いわー。」 「何がですか?」 「絶対これ、あずくん可愛いってリプめっちゃくるよ」 「馬鹿にしてます?」 何も見えてない状態なのに この写真の一体どこに可愛い要素があるのか。 sakuさんはそんな冷めた俺の反応ですら 楽しそうに「可愛い」と言い続ける。 「あずくん、そのキャラ公開したら 絶対もっと人気でるよ。むしろ俺が自慢したい、 あずくんこんなに可愛いんだぞーっつって」 「ほんとにやめてください」 可愛いって言われても困るのだ。 コメントを読んでいても 時々「可愛かったです!」と書いてあることがあるが 俺のどこが可愛いのか教えてほしい。 嬉しくない訳では無い。 もちろん、コメントは全部嬉しい。 っていうか、普通に照れるし、恥ずかしい。 初めて出した「僕を見つけてくれた君へ」のコメントは 今でも時々見返しては照れて一人で悶絶している。 その時の姿はマジで誰にも見られたくない。 それだけ、コメントは嬉しいものなのだ。 ぶっちゃけて言うと 全員ではないが覚えているIDもいくつかある。 例えば、azu*lblue3とか。 IDとは視聴者であるファンを識別するための 符号のことであり、 vommitにアクセスする際に必要になるものだ。 コミュニティ名に5つの英数字を組み合わせて 自分の好きなものに設定することが出来る。 もちろん、他人と同じ組み合わせは出来ないが。 俺のコミュ名は「azu*l」だから その後にみんな好きなように英数字を 付け加えているはず。 その中で一際目に入ったIDが「azu*lblue3」だった。 特別扱いをする訳では無いが、 初期にコメントをしてくれていたのと綺麗なIDだなぁ と思ったことがきっかけで覚えている。 「JUICY」の時は 「azu*lblue3」のコメントを見つけることが出来たが、 もう「探し物」では見つけられなかった。 そういえば、結局「探し物」のコメント数、 どこまで伸びたんだろう… と、考え事をしていた俺は sakuさんの声でふと我に返った。 「こないだのあれとか、あざとかったしね」 こないだの、あれ? 心当たりのない「あれ」に首を傾げる。 「何ですか?」 「あのさ、日付変わってから好きですって告白したやつ」 ああ、そのことか。 「探し物」を投稿したあとの掲示板。 「今コメント読んでます。 みんな、僕のこと好きすぎませんか?笑 僕も君が好きです。 これからもよろしくね。azu」 確かに、自分にしては こういうことを言うのは珍しかったかもしれない。 いつも出来るだけシンプルに、淡々と書いてるから。 「なんで知ってるんですか」 「姉ちゃん」 「ああ…」 別にあれは 日付を変わるのを狙ってそうしたわけじゃなくて 掲示板に投稿したあとに コメント読んでたら嬉しくなっちゃって、 日付変わったし連投になるけどまあいっかって お礼を言っただけなのに。 あの後、kororiさんから 「狙ったの?ずるい男」というボミメがあった。 だから、そんなつもりは無かったんだって。 「あずくんそれが素だもんなぁ。モテるでしょ?」 「モテないですよ…」 「でもほら、こんなに人気だよ?」 そう言ってsakuさんはTwitterを見せてきた。 「あずくんなう」と共に さっきの写真が添付されたツイートは 3000RTと5000いいねを記録している。 数字はどんどん変わり、 あっという間にいいねは6000になる。 「俺、多くても2000しかいいね数ないのに〜」 「物珍しいからじゃないですか」 Twitterをやってないから みんなにとって俺はなかなかのレアキャラだろう。 「じゃあ珍しさついでに」 sakuさんは携帯を俺に向けた。 「…はーい、あずくんでーす」

ともだちにシェアしよう!