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第22話
俺はぱちぱちと目を瞬かせた。
「……え?動画?」
「動画でーす、なんか喋ってー」
何で動画なんて撮るんだろう。
悪用される気がして俺は黙り込む。
「……」
「先輩の言うこと聞けないんですかー」
「……」
黙っていると、sakuさんは呟いた。
「これTwitterにあげるから」
「えっ、ちょ」
思わず俺はsakuさんの携帯に手を伸ばしていた。
動画とか一番あげられたくない。
ひょいっと携帯を俺に取られないように持ち上げて
「すっげぇ焦るね」
とsakuさんはケラケラ笑った。
「そりゃ焦るよ!」
投稿者の中には配信をする人もいる。
一応vommitにもそういう機能はあって、
作業配信、解説配信、雑談配信から選択して
ひと枠30分、一度だけ延長ありで最高60分
放送することが出来るのだ。
でも俺は、そういうのはしたことないし
今後もする予定はないから
地声で話した音源を世に出すつもりはない。
そんな俺の思いなんて知る由もないsakuさんは
机に頬杖をついて俺を見つめた。
「いや、まじであずくん可愛いわ」
「俺で遊んでますよね?」
「バレた?」
そう言って笑うsakuさんをじとっと睨む。
先輩だって分かってるけど
ここまで遊ばれたらそりゃあムッとする。
sakuさんはしばらく笑っていたが
ふと急に真面目な顔になった。
「あずくんさ、曲作る気ない?」
「ありますよ」
もちろん、あるに決まってる。
じゃなきゃvommitなんてしてないし。
sakuさんは言葉を続ける。
「俺、作詞しかしないじゃん」
「そうですね」
「で、あずくんは曲作れるじゃん」
「そうですね」
「mixはkororiにお願いするとして」
「はい」
「曲をね、提供したい子がいるのよ」
急に視界がキラキラした。
「それでさ、」
「やりたいです!!!」
sakuさんの言葉を遮って俺は身を乗り出す。
「食い気味すぎんだろ」
sakuさんはくっくっと笑った。
そんな事言われても。
だって、誰かに曲を書けるなんて、わくわくする。
「いやぁ、ほんと、
vommit界隈って可愛い子多いから困るわ」
俺はビクッと身体を強ばらせた。
sakuさん、それだけ聞くと
変態発言に取られかねないと思うんですけど。
「あずくんも気に入ってるんだけど
その子もさ、可愛いんだよね」
「はぁ」
sakuさんの好みはよくわからない。
けど嫌われてるよりは気に入られてる方が
当たり前だけど、断然嬉しい。
「ところで、さっきから通知がすげぇ」
「は?」
sakuさんが見せてきたTwitterの画面には
さっき撮られた動画が上がっていた。
前言撤回。
気に入られすぎても困る。
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