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第25話

俺は眉をひそめながら向けられた携帯に首を傾げる。 「なんですか?」 「ファンの人へのお礼動画。撮ろうぜ」 またか。 こないだ勝手に動画を載せたことは まだ許してないし その後に手だけのピン写を載せるハメになったのも まだ怒ってるんだけどな。 「嫌です」と、ぷぅと頬を膨らませていると kororiさんはくすくす笑った。 「えー、いいじゃーん。 あず、露出少ないんだからサービスしてあげなよ〜」 サービス? 俺の動画がサービスになるのか? 疑問に思いながらも 「kororiさんが言うなら」と、俺は渋々了承した。 「はい、あずくんの曲が30万回突破したということで いつも応援してくれてる皆様に何かひと言どうぞ!」 sakuさんはインタビュアーのように 楽しそうに声を弾ませて俺に話しかける。 「…えぇっと、いつも、ありがとうございます。 …azuです。」 うわ、なんだこれ、めっちゃ緊張する。 手をパタパタと動かす。 「30万回再生…嬉しいです、ありがとうございます。 まだまだ僕は未熟で…未熟だから、 もっとたくさん曲を作ります。 この嬉しい気持ちを曲にするので、 また聴いてくれると、嬉しいです…」 変じゃなかったかな。 チラッとkororiさんを見ると、 うんうん、とニコニコしながら頷いてくれたので ほっと息をついた。 「じゃあ最後に、「僕を見つけてくれた君へ」を ワンフレーズだけアカペラでお願いします!」 sakuさんの言葉に俺はビクリと身体を揺らした。 なにそれ、聞いてないんですけど。 「えっ、やだ、やです。」 歌わされるのは好きじゃないのだ。 「やです。じゃねぇ! 顔が可愛いからってなんでも許されると思うなよ!」 「可愛くないんでやめてください。終わり!」 俺はsakuさんの携帯に手を伸ばした。 お礼の動画は撮れたんだから、もう十分のはずだ。

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