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第27話
「いや、俺、初恋まだなんで…」
「「えっ?!?!?!」」
二人はギョッとして、
丸くなった目を俺に向けてきた。
予想外の大きなリアクションにビクッと肩が跳ねる。
え、そんなに驚くこと?
「待って、天然記念物がいるんだけど」
「おー、まじか、いいじゃんいいじゃん」
sakuさんとkororiさんは
何故か興奮しながら目をキラキラさせている。
なんか、馬鹿にされてる気がするぞ。
「でもあずさぁ、経験したことじゃないと
歌詞書けないって言ってなかったっけ?」
「あ、はい」
「初恋まだなのにこんなの書けちゃうの」
「これは、俺の友達…じゃないんですけど、
なんか、知り合いの話です」
仲が良いわけじゃないけど
なんか、小さくて一生懸命な子だった。
彼の恋はどうなったのだろうか。
「へぇ…」
kororiさんは、ふっと笑う。
「あずは、
何でもない日常をきらきら書ける天才だもんね」
「なんですか、それ」
「だってさぁ、JUICYだっけ。
あれ、巷ではセクシーだとか言われてるけどさぁ、
ハンバーグ食べたいなぁって思いながら
書いたんでしょ?」
可笑しそうに言うkororiさんにかっと頬が火照る。
なんで今その話を蒸し返すの。
「なにそれ」
「あず、ハンバーグ好きだから」
ますます意味がわからないといった顔で
sakuさんは俺をじっと見る。
そんなに見られても困るんだけど。
顔が熱くなるのを感じながら
俺はボソボソと呟いた。
「……好きなものについて、歌おうと思ったんです」
「それで、題名がJUICY?」
ぶはっとsakuさんが吹き出した。
「なに、その、予想の斜め上行くかんじ…っ」
「ね〜、ほんっと可愛い」
笑いを堪えているのか
ふるふるとsakuさんは肩を震わせる。
もはや笑ってくれた方が気が楽なんですが。
「馬鹿にしないでください…」
いいじゃん、好きな物について歌ったって。
それがハンバーグでもいいじゃん。
好きなんだから。
だから曲の解説とか極力したくないのだ。
俺は、何も特別な感性を持ってる訳じゃなくて
自分の好きな世界を
自分の見てる世界を
そのまま歌にしてるだけなんだ。
「わたしは、みんなが想像してるあずの幻像から
今目の前に居るこの可愛いあずを守りたい」
「kororiさん、何言ってるの?」
みんなが想像してる俺の幻像?
それって一体どんなものなのか。
kororiさんは相変わらずよしよしと頭を撫でてくる。
「いやぁ、あずくんが恋する日が楽しみだわ」
sakuさんはニヤニヤと含み笑いをした。
「ハンバーグであんな歌詞が書けるなら
大好きな人の事思いながら書いたら
どんな歌が出来るんだろうね?」
その言葉に何故か恥ずかしくなって、俺は俯いた。
いつか、俺は人を好きになって
その人のために曲を書いたりするんだろうか。
毎日がきらきらして見えるような日常が
好きで好きで堪らないと思えるような人が
心の底から伝えたいと思う気持ちが。
考え事をしている俺に向かって
sakuさんは、思い出したようにポンっと手を叩いた。
「あ、そうそう、
こないだ曲を提供したい子がいるって言ったけど
あれ、nyaoくんのことだから、よろしく」
俺はくるんと目を回した。
え?
nyaoって、マジ?
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