34 / 80

第34話

連れてこられたのは軽音部の部室。 正確には、元、軽音部の部室。 今じゃ誰も使ってないけど ピアノやギターなどがそのまま置かれてあるので 俺は度々授業をサボってここで時間を過ごしていた。 「ほら、早く」 冬弥は俺の顔を覗き込む。 大して音楽に興味があるわけじゃないくせに。 ムッとしながら俺はピアノの前に座った。 「…れ?ギターじゃねぇの?」 冬弥は俺の隣に立つ。 確かに、冬弥に曲を聴かせる時は いつもギターで弾き語りをしていた。 「んー、ピアノだけにしようかと思って」 「何を?」 「全部。メロディーもリズムも全部ピアノの音にする」 ふーん、と呟いた冬弥は多分、全然分かってない。 「めちゃくちゃ細かく録音して重ねようかなあって」 「うーわ、めんどくさそ」 「ほんとに、手が6本ぐらいあればいいのに」 それでも その面倒臭さにわくわくしてしまうんだから 俺ってほんとに幸せな人間なんだろうなぁ。 「んじゃ、とりあえず弾いてみるね」 自分の中で作っただけで 楽譜があるわけではないからうろ覚えだけど。 細かいところは適当に弾こう。 ピアノに指を添える。 ああ、この瞬間、すごく好きだ。 ゾクッと指が震えた。 音が鳴る。 空気が振動する。 耳を擽る。 息ができる。 ピアノは楽しい。 楽器を弾くのは楽しい。 さっきまでのもやもやを危うく忘れそうになった。 これを元に曲を作るんだから ただ弾いて楽しんでるだけじゃ駄目だ。 ふと頬に温かいものが触れ、俺は演奏する手を止めた。 「冬弥?」 「演奏止めんな。弾いてろ」 冬弥はそう言って、俺の頬を撫で続ける。 弾いてろって言われても… じゃあちょっかい出すなよ… 渋々ピアノを弾き続けると 今度は指でするりと耳の筋をなぞられた。 なんなんだ? 擽ったいからやめてほしい。 首元にまで伸びてきて、流石に手を振り払った。 「ちょ、冬弥!」 「はいはい」 冬弥はパッと手を離した。 ジロっと睨みながら首元をさする。 ゾワゾワして気持ち悪かった。 なんで邪魔するんだよ。 弾けって言ってきたのはお前だろ? 冬弥は俺の顔を見て微かに笑った。 「俺は、お前が可愛いと思うよ」 「あ、そう…?」 やっぱり、こいつ何考えてるか分からないな。 冬弥は俺の隣に座ってきた。 膝が触れ、咄嗟に距離を取る。 人に触られるのは得意じゃない。 「っていうか、お前、ピアノ聴いてた?」 「聴いてなかったからもっかい弾いて」 はぁ。

ともだちにシェアしよう!