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第35話
「蒼、カラオケ行くぞ」
礼央にぐいっと腕を引かれた。
「え、なんで?」
「お前この間約束しただろぉ」
あー、そういえば、うん、したね。
したけど、全然行きたくないね。
曖昧に笑いながら礼央の腕を振りほどこうとしたが
ぐっと強く掴まれて逃げられなかった。
「今日こそは絶対来てもらうからな」
「なんでそんなに気合い入ってんの」
「佐藤さんと横江さんが来る」
あー、テニス部の可愛らしい子達だね。
俺は魚の餌か何かですか。
どうせ歌わせる気なんだろ。
何で歌わなきゃならないんだ。
「スランプなんでしょ?息抜きでもしたら」
そう言って、冬弥は俺の肩を抱き寄せた。
自然と礼央の手から逃れることができてほっとする。
「息抜きもなにも、カラオケ苦手なんだけど」
「俺も行くから、いいじゃん」
俺を抱き寄せたまま、冬弥は笑う。
冬弥がいようがいまいが
俺が歌わされることに変わりはないから
関係ないと思うんだけど。
「近い」
ぐっと押し返すとあっけなく手を離してくれた。
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