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第50話

それはとある昼休みのことだった。 購買にパンを買いに行った後の教室への帰り道。 「七瀬くん」 声を掛けられて振り向くと知らない顔。 「田原です」 どこか緊張した面持ちで話す、 前髪を伸ばして眼鏡をかけた小柄な男の子。 田原…? 俺は首を傾げた。 どこかで聞いた覚えがある。 「あの、お時間ありますか…?」 「まぁ…はい…」 「お話、したいことがありまして」 田原くんはもじもじと袖をいじっている。 何だろう、なんか告白する前の女子みたいな… その時、はっと思い出した。 「なんか、田原くんお前のこと好きだったみたいよ」 といういつかの尚史の言葉を。 田原くんって、あの田原くんか!!! 本能的に「逃げろ」と脳が命令を下した。 「あ、えーと、今じゃなきゃ駄目ですか…」 後退りながら呟くと 「今しかないんです!」と、距離を詰めてくる。 そんなことないだろー。 逃げたい。 何とかして逃げたい。 「あの、また今度にして頂いていいですか…」 俺はくるっと振り返った。 このまま足早に逃げよう。 と思ったら 「待ってください!!!」 と、ガシッと腕を掴まれた。 うわーーー!触るなーー!離せーー! 「好きです!!! 七瀬くんのことがずっと好きでした!!!」 言うなーーー!!! 俺許可してないだろーーー!!! 「いや、えっと、あの」 男に告白されるのは初めてで戸惑う俺。 腕を掴まれたまま、棒立ちになる。 「近くで見ると、ほんとにかっこいい…」 俺の身体が固まってるのを良いことに 田原くんはぐいっと顔を近づけてきた。 逃げなきゃ。 固まってる場合じゃない。 「七瀬さん…?」 その時。 声がした。 少し高めの、好きな声。 その声にいち早く身体が反応した。 固まり強ばっていた手足がはらはらと解ける。 「あ…」 蒼くん。 学校で蒼くんと会えるなんて。 嬉しい。 けど、今じゃない。 男に腕を掴まれ、告白され、迫られてる今じゃない。 「あー、お取り込み中…?」 盛大に勘違いをした蒼くんは眉を下げて笑う。 「お邪魔しましたー…」 待って、この状態で放置しないで。 っていうか、勘違いしたまま去らないで。 俺は思わず蒼くんの服の裾を掴んでいた。

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