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第57話
真央さんといると勝手に曲が流れてきて困る。
「わー!いただきます!」
約束のオムライス定食。
真央さんはハンバーグ定食を頼んだ。
「久々に食べたけど美味しい〜」
「あんまり学食食べないの?」
俺が敬語混じりのタメ語で話すようになってから
真央さんも敬語を外して話してくれるようになった。
「んー、普段はお弁当なんで」
「そっか」
「真央さんは?」
「俺は学食か…まあほとんど購買」
そういえば、この間の「田原くん」騒動の時も
パンを持ってた気がする。
学食ならいいけど、
購買のパンとかは栄養面的に良くないと思う。
「俺が弁当作りましょうか?」
「ゲホッ」
俺の言葉に真央さんはむせた。
漫画みたいな綺麗なむせ方。
「あははっ、嘘ですよ。俺、料理出来ないもん」
「そういう冗談はやめてください…」
涙目になってゲホゲホと咳をする真央さんが可笑しくて
俺はケラケラ笑った。
無事に完食した俺はパンっと両手を合わせる。
「ごちそうさまでしたー!真央さんありがとー!」
「いや、お礼を言うのは俺の方だし…」
「そうですよね、感謝してください」
「ほんとに、ありがとうございました」
深々とお辞儀をしようとした真央さんを慌てて止める。
ほんと生真面目。
「真央さんの教室の方まで送りますね!」
「えっ、いいよ、蒼の教室まで行くよ」
「それはまずいかも。冬弥いるし」
冬弥は、自分の知らない人と俺が仲良くしていると
敵意剥き出しで喧嘩をふっかけようとするから大変だ。
何故かはわからないけど
真央さんのこと、気に入ってないみたいだし。
「あの、さ、冬弥くんとはほんとに何も無いの…?」
遠慮がちに真央さんは聞いてくる。
「何かってなんですか?」
「あ、えーと、いや、いいや」
何、気になるんだけど。
その後何回聞いても教えてくれないから諦めた。
食堂は、校舎とは別の建物なので
校舎に戻るには一度外に出る必要がある。
ドアを開けると、
暖かい風が緩やかに吹いていて気持ちよかった。
天気がいいから、午後の授業サボりたい。
「眠いなー…」
真央さんは空を見上げて呟いた。
「…〜〜♪…」
揺れる気持ちを重ねたくて
約束はオムライス
君に会いたくて
目を合わせてくれない君の睫毛が揺れる
僕は君の手を引いて
空を越えて夢を見る
ぼーっと真央さんを眺めていると
ふいに振り返られた。
目が合う。
逸らされない。
その、ほんの少しの変化が嬉しい。
「蒼、ずっと歌ってるね…?」
「ん?なんかね、歌っちゃう」
「人前で歌うの嫌いじゃなかったっけ?」
「歌わされなかったら、いいよ」
これを早くノートに書きたい。
忘れないうちに書き留めたいけど
まだ真央さんといたい。
「あ、もしかしてうるさかった?」
真央さんはふるふると首を横に振る。
「…俺、蒼の声、好き」
思わずふにゃりと顔が緩んだ。
「へへっ、嬉しい」
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