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第65話

家に着いた。 放送が終わったあと、 自分では気づかなかった疲労がどっと押し寄せてきて nyaoの部屋でぐったりと寝転んでいたから こんな時間になってしまった。 俺が回復するまで nyaoも隣で寝転んでずっと話をしてくれた。 ほんとに優しい。 「ただいまー」 ドアを開けると、奥から声がした。 「おかえりー。ご飯はー?」 「んー、ちょっとだけ食べる」 「ちょっとって何ー?」 母さんがひょこっと顔を出した。 「まさか、母さんのご飯残すってこと?」 「お腹空いてなくて」 「食べてきたの?」 「んーん、違うけど」 「なら食べて」 お腹空いてないんだけどなぁ。 ご飯食べるよりも作業がしたい。 なんて言うと怒られるから、大人しく席につく。 「あんたすぐご飯食べなくなるんだから」 「んー」 「また入院したいの?」 「んー」 母さんが用意してくれるご飯をぼーっと眺める。 小6の頃、ご飯が全然食べられなくなって ぶっ倒れて入院したことがあった。 病院のベッドの上は、暇で暇で仕方がなかったっけ。 あ、手洗ってない。 立ち上がって手を洗いに行く。 洗面所までいい匂いが漂ってきて、少し食欲が湧いた。 母さんの料理は美味しいから、好きだ。 食欲がある時は、たくさん食べれるのに。 席に戻ると準備が整えられていて もういつでも食べられる状態になっていた。 さすが母さん。 いつもありがとう。 「食べれるとこまで食べる」 「よろしい」 母さんは満足気に頷いた。 「最近また部屋に篭ってるからお母さんしんぱーい」 「曲作ってるだけだよ」 「好きねー」 母さんは俺が曲を作って投稿してることは知ってる。 特に応援するわけでも非難するわけでもなく やりたきゃやれば?と放任主義だ。 「あ、あれ聞いたよ、なんだっけ」 母さんはニコッと笑った。 「ふわっふわ、君と〜、ラブリーミュージック〜♡」 ゲホッと盛大にむせた。 「あれ可愛かったわー。ね、台詞言ってよ」 「やだよ!」 そう、恋色ベリーには台詞を言うところがあって 俺はそこが恥ずかしすぎて死ぬかと思った。 なんで親に向かって言わなきゃいけないんだ。 母さんはニコニコしたまま 「そしたらご飯無理して食べなくていいから」 なんて魅力的な提案をしてくるから 俺は渋々呟いた。 「…僕色に、染まってくれる?」 この後nyaoの「僕色に染めてあげる♡」が続くのだ。 語尾にハートをつけろと死ぬほど言われたが 全然付けれなくて何回も録り直した。 母さんはきゃーっと高い声を出す。 「かっわいーーー!ほんと可愛いね、あんた」 俺は眉をひそめた。 年頃の息子に可愛いとはなんだ。 「ね、ちょっと首傾けて上目遣いして言ってよ!ね!」 携帯を構えて目をキラキラさせる母さんに 溜息をつきそうになる。 「……ごちそうさまでした」 立ち上がろうとした俺に母さんは指をさした。 「残ってるよ?」 「今、無理して食べなくていいって…」 「それとこれとは別でしょ。食べて」 なんて理不尽な。 「君色〜僕色〜恋色ベリ〜」 母さんは恋色ベリーのサビを歌いながら 残りのご飯を一緒に食べてくれた。

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