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第75話

電車でぐっすり眠って元気はつらつな蒼は フェリーに乗ってる間ずっと楽しそうだった。 「わ〜〜〜〜!赤かぼちゃ!赤かぼちゃ!」 と指をさしてはしゃいでいる。 初めて船に乗るというので 船酔いの心配をしたがどうやら大丈夫だったようだ。 バスに酔いやすいと言ってたから酔うと思ったが。 一般的に車より船に酔う人の方が多いそうだ。 普段乗り慣れてない乗り物だからだろう。 まあ、なんにせよ、蒼が酔わなくてよかった。 蒼がさっきから叫んでいる「赤かぼちゃ」とは フェリーが直島の宮浦港に近づくと、 真っ先に目に入るアート作品のことである。 ベネッセハウス周辺には黄色い南瓜があるらしい。 さすが、アートな島。 「もう着くから降りる準備して」 「はーい!」 俺の言葉に蒼は元気よく手を挙げた。 その姿に思わず笑ってしまう。 なんか、前からちょっと思ってたけど 蒼って俺と居る時幼くなるよな。 冬弥たちと話してる時、azuとして話してる時、 やっぱりそれぞれ使い分けてる部分はあるんだろうけど 俺と居る時は全体的に言動が子供っぽい気がする。 年下として甘えてきてくれてるんだとしたら それは凄く嬉しいけど。 「うわっ」 船が揺れて蒼がとん、とぶつかってきた。 「大丈夫?」 「うん、ごめん」 鼻をさすりながら蒼は身体を起こす。 ぶつけたのか。 「体幹無くて」 「無さそうだね、見るからに」 「失礼な……わっ」 蒼がまたふらつく。 危なかっしい。 俺は蒼の手を取った。 「ほら、ちゃんと立って」 「……」 「何?」 「んーん、ふふっ」 笑いながらぶんぶんと腕を振るから 俺は蒼を掴む手を強くしなければならなくなった。

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