77 / 80

第77話

その日の夜はベネッセハウスホテルに 泊まることになっていた。 学生には少し高いがせっかくだし。 本当は李禹煥美術館から ベネッセハウスミュージアムまで バスに乗る予定だったが、 そんなに遠くないし ミュージアムに着いたらもう移動もしないので 歩いて行こうと蒼から提案されそれに従う。 今日は一日、のんびりとしていた。 電車に揺られて 美術館を巡っただけで、大したことしてないし。 尚史と滋賀旅行した時はこんなんじゃなかった。 体育会系の尚史に 琵琶湖一周サイクリングに付き合わされたのだ。 あれはあれで楽しかったけど。 歩きながら蒼が口ずさむ。 また歌ってる。 好きなんだろうなぁ。 「何の歌?」 「ん?…んー…名もない歌。」 「へ?」 「俺のオリジナル」 蒼は照れたように笑う。 きゅんとした。 いつも、こんな風に曲を作るのか。 「ホテルにピアノがあればいいのに」 「ピアノ?!」 「ギターでも何でもいいけど」 「あー。ピアノとギターとドラムが出来るんだっけ」 俺の言葉に蒼はくるんと目を回した。 「俺、そんなこと真央さんに言ったっけ?」 あ。 しまった。 これ、蒼じゃなくてazuのことだ。 「や、そんな事聞いた気がするな〜って」 苦し紛れに苦笑いをする。 蒼は特に気にしてない様子で頷いた。 「一応出来るよ。あとベース」 「一人でバンド出来るな…」 ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボード、蒼。 想像したら笑える。 「あははっ、一人はやだよ」 そう言って笑う蒼に尋ねる。 「でも、何でそんなに色々弾けるの?」 「ピアノは習ってて、ギターは父さんの。 ドラムとベースは高校入ってから練習した。 っていうか、今も練習中」 なるほど、という事はazuとして活動するために ドラムとベースを練習したってことか。 やっぱり才能だけじゃないよなぁ。 努力してる。 そんな話聞いたら、益々ファンになるから困る。

ともだちにシェアしよう!