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「神谷、ジュース」
「……へいへい」
ホテル街事件から1週間。思った通り、弱みを握られた俺は佐野の下僕と化していた。
でも、言い付けられるのはジュースやらの買い出しに代返とかの校内でできる雑用ばっかりだった。そらね、いくらゲイという秘密を握られてるからってね。エロゲや同人誌でもあるまいし身体を要求とかそうそうされないわな。男だし。
俺の最大の秘密を知ってパシリに使うとはいえ、態度を変えず普通に接している佐野を見ると、こいつにも同性愛への偏見はないのかな、なんて甘い考えが過ぎる。
この1週間、まるで従者のように佐野の傍に居て、こいつがモテるのは顔面のおかげだけでないことも知った。
目を見て話をし、内容を覚えて次回に活かし、細かい所にも気が点く。なんというか、女の子が喜ぶことをよーく知ってる男だった。うざいくらいに気が利く。その1/10の優しさ俺に向けてみろって言いたくなるくらいに。
見ててすんげえ腹立つ。
ジュースを買って戻ると、佐野はまた女の子たちに囲まれていた。
それも、朝話していた子とは違う子。この広いキャンパスで女の子の知り合いはどれだけいるんだろうこのスケコマシ。
「ん」
「お、ありがとー」
ひらひらと手を振って荷物を纏める。今日は大学に用はない。身支度を整えながら佐野を盗み見ると、プルトップを開けてごくごくと飲んでいる。
……あんなクソ甘いカフェオレ、よく飲めるな。
佐野は随分と甘党なのだとこの1週間で知った。飲むのはいつも、激甘カフェオレ。
きりりとした眉と目が印象的なくそイケメンな外見でそれなもんだからか、カフェオレを飲むたびに傍に居る女の子がブラック飲んでそうなのにギャップたまらないと騒いでるのを何度か聞いた。あほかと。
俺は俺で、コーヒーはブラックしか飲まないんだけどなぜか口にするたび似合わないと否定される。外見と好みが釣りあうと思うなよ。
それに、己の価値観を押し付けないでほしいとも思う。
「神谷帰るの?」
「ん」
振り返らずに答えて教室を後にすると、声が聞こえた。
「神谷くんって、あんなに可愛い顔してるのに愛想悪いよね」と。ほっとけ。
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